トカゲ太郎のワンダー・ワールド
野鳥密猟との闘い

(訪問日 2013年7月21日)

野鳥は飼えません

日本では野鳥を捕まえて飼育することは原則として違法だ。もちろん許可を得て捕獲すること(調査目的など)と、狩猟の対象種となる鳥については許されているけど、違反すると100万円以下の罰金か1年以内の懲役に処せられる。だからハトやスズメも獲ってはいけないし、飼うのもダメだ。一般の人々にはあまり関係ない話ではあるけど、世の中にはメジロなどの野鳥を捕まえて売りさばく犯罪者がいる。

平野虎丸さんは今まで30年近くそうした野鳥の密猟を取り締まってきた。つい最近の例は福岡県内でメジロなどの野鳥を100羽50万円で密猟者から買い取った業者を摘発した。こうした野鳥の売買が成立する背景には「鳴き合わせ会」と呼ばれる鳥愛好家の集まりがある。愛好家たちはそれぞれ持ち寄ったメジロの鳴き声の美しさを競うのだ。ただ、鳴き合わせ会自体は違法ではなく、外国から輸入された鳥でそれを証明する書類を所持していれば問題ない。しかし現実には違法に捕まえられた国内産のメジロがこのような会に持ち込まれることは珍しくない。

   押収した鳥籠。悪質な業者はこのような狭い鳥籠を数十個も並べて飼育している。
(写真提供:エコシステム協会)
   熊本県に住む個人がメジロを539羽違法に飼育していた。現場にはその他に200羽ほどの死骸が散乱していたという。その時証拠として押収した死んだ鳥たちの頭蓋骨。

鳴き合わせ会は全国の都道府県で行われ、中でも大阪や長崎で盛んだったようだ。でも、平野さんによれば現在の密猟者の数は最盛期の1%にも満たないという。

「これまでの地道な摘発が実を結び、数はだいぶ減りました。でも、問題がないわけではありません。密猟者一人が捕まえる鳥の数が異常に多いのです。以前は多くて14~5羽だったのが、今は一人で一回の密猟で70羽も捕獲する。」
と、平野さんはまだまだ気を緩めていない。

保護とリハビリ

メジロたちは平均1羽5万~10万円で取引されているようだが、高いものになると40~50万円もの値がつく。取引の対象となるのはオスのメジロで、主にメスを惹きつける時に出す鳴き声によって値段が決まる。平野さんは鳴き合わせ会に行くことはもちろん、密猟されたメジロを直接密猟者から押収したり、それらの鳥たちを扱っているペットショップの業者を摘発したりして鳥たちを保護している。でも、罪を犯す側も一筋縄ではいかない者ばかりだ。

押収したトリモチ
   トリモチを付ける枝。木に引っかけたり地面に突き立てたりしてメジロを待つ。

「中国から輸入したメジロはすぐに放鳥していまい証明書だけ手元に残すのです。だから踏み込むと大抵の場合、その輸入証明書を持ち出して合法だと主張します。いろいろなやり方はあるのですがこういう場合は鳴き声を聞き分ける(国産と中国産の違いは訓練しないと難しい)のと、鳥の年齢から判断します。ある事例では明らかに古い証明書だったのですぐバレました。」
と、平野さんは現場の様子を語る。

メジロのほか、オオタカ、キビタキ、ウグイス、ホオジロなどの野鳥が愛好家の間で取引され保護の対象となっている。

押収した小鳥たちをすぐに山に放すわけにはいかない。狭い鳥かごの中で弱ってしまい体力のない鳥たちがほとんどだからだ。平野さんはこうした小鳥たちのリハビリ施設をもっていて一定期間のリハビリを終えた後、放鳥するようにしている。リハビリの期間は、鳥の年齢や捕獲されていた期間によって決まる。また、5~6年飼育されていた鳥は若い鳥といっしょに飼ってはいけないなど、無事に健康を取り戻すには様々な注意が必要になる。

さらに、すべて自費で活動しているため毎日のエサ代なども大きな負担になる。




トカゲ太郎

密猟者たちはメスの囮(おとり)を地面に置いてオスをおびき寄せる。枝や釣竿にトリモチをくっつけてメスの側に置いて捕まえるのだ。違法行為を指摘すると大抵はおとなしく放鳥する。

自然保護とは命がけ

野鳥の密猟は人里離れた山林の中で行われる。こうした現場で不信な人物を見かけると声をかけ密猟者かどうか確かめるのだ。ただ、密猟者の中には暴力団関係者とつながっている場合もあり大変な危険をともなう。日中でも薄暗い森林の中では携帯もつながらない。助けを呼ぶこともできず元警察官の平野さんでさえ抵抗されて、気を失いかけたこともあった。

最初の頃はまだ深刻に受け止めてもらえず、警察の協力を得ることもなかなか難しかった。それでも平野さんが密猟の取り締まりを続けているのは鳥たちを助けたい一心からだ。しかし、心が揺らぐ出来事もあった。摘発した業者が周囲の眼を気にして自ら命を絶ってしまったのだ。

鳥獣保護法について

現在、鳥獣保護法で狩猟が認められている野鳥は29種、ほ乳類は20種。ただし、これらのリストも状況に合わせて見直しが行われるため注意が必要だ。これらの鳥獣は原則として捕獲、飼育してはいけないことになっている。ただ、ケガや病気で弱っている鳥獣を一時的に保護し飼育することや人口養殖などについては認められている。たとえ狩猟であってもカスミ網、トリモチ、弓矢などの使用は禁止。狩猟の許可など都道府県ごとに違いがありまだまだ問題がある。

リハビリ中のメジロたち。これらの鳥たちはほとんど全部幼鳥だ。

「4~5羽ぐらいであれば見逃すこともあります。鳥を放してくれさえすればいいのですから。そうした人たちは密猟者の情報を提供してくれるようになります。しかし百数十羽なんてケースは別です。告発して罪を償ってもらいます。」
と、普段は温厚な平野さんでも悪質な密猟者に対しては断固たる態度を崩さない。

これからのこと

各都道府県には鳥獣保護員がいて、鳥獣保護区や休猟区、猟区などにおいて取り締まりを行っていることになっている。しかし、実際には狩猟免許をもったハンターが鳥獣保護員となっていて、「免許はもっているとはいえ命を奪う人間が“捕る”だけだと主張する密猟者をとがめることができますか?」と、平野さんは憤る。そうした逆風の中で密猟の取り締まりに目覚ましい成果を上げてきた平野さんだが、一方でもっと一般の人に動植物の保護や保全に関心を持って欲しいと願っている。

「油断はできませんが野鳥はひと段落しつつあります。でもまだまだ貴重な植物の盗掘などは後を絶ちません。都会に暮らしているとなかなか実感が湧かないかもしれませんが、豊かで貴重な自然は国民全体の財産なのですから。」
と、全国の人々にブログなどを通じて呼びかけている。

メジロ
   自然が豊かな地方だけではなく、都会の真ん中にある公園などでも頻繁に見かけることができる身近な野鳥だ。