トカゲ太郎のワンダー・ワールド
山を守ろう
一般社団法人エコシステム協会

(訪問日 2012年7月12日)

一見すると美しい日本の山々。でも、よく見るとスギ林ばかりの季節の変化に乏しい山が目立つようになってきた。最近は紀伊半島や四国、九州で山が崩れる大規模災害も起こっている。いったい何が変わったのか、何が山で起きているのか、エコシステム協会の代表理事で熊本県を中心に日本全国の山々を調査している平野虎丸さんに話を聞いた。

日本の森林

日本は森林大国だ。国土の約70%が森林におおわれている。そのうち天然林が占める割合は約50%、人工林は約40%となっている。ただ、地域によってこの差は大きく異なっている。例えば、九州や四国の場合約60%が人工林であるのに対して、東北はその逆で約60%が天然林であり、北海道では約70%の天然林が残されている。



ものごとには順番があるとたい

平野虎丸さんは先祖代々林業を営む家系に育ち、もう60年以上山と関わり続けている。平野さんにとって山に暮らす植物も動物も生き物すべてが大切な仲間だ。しかし今、山そのものが本来もっている力を失いつつあるため、その仲間たちに大変な危機が迫っている。

日本では戦後の昭和20年代から30年代にかけて天然林を伐採し、人工林を増やすことで不足していた木材を補った。でも、昭和50年代に木材の輸入がはじまったことで国産の消費が減り、今では20%ほどしか国内で使われていない。

国産の木材が売れないのであれば人工林はいらないし、天然林の伐採はもうしていないのかというと、決してそうではない。例えば、水源涵養保安林と呼ばれる場所がある。ここでは山奥にある水源を確保するという理由から天然林を伐採し、スギなどを植林している。また、人工林の手入れのために林道を敷くために天然林を切り裂く場合もある。

一方、天然林には大きな役割がある。山に水や土壌を蓄えることできれいな水を作りだす。また、土をしっかりと山に留めることで土砂の流失を抑えるとともに、流れ出る水の量を調節して川の氾濫による洪水を防ぐ。そして、最も大事なことは多くの生き物の棲む場所であることだ。天然林を削るということはこうした利点を失う危険をともなう。

ところが、「水源涵養保安林に近い沢は枯れて水などありませんよ。スギやヒノキに水を貯める力があまりない上に、倒木している場合も多くあります。」と、実際に多くの枯れた沢を見てきた平野さんは嘆く。

水源涵養保安林近くの沢。水は枯れて倒木が目立つ。
写真提供:エコシステム協会

天然林とは

ブナやカエデ、サクラなどの広葉樹を中心にした森林。その中には人の管理する里山や逆に人間の手の入っていない原生林も含まれる。

人工林とは

スギやヒノキ、カラマツなどの針葉樹の森林。建築や家具などに利用する木材の生産がその目的。

国有林とは

国が所有する森林。国立公園や保安林も含まれる。個人や会社が所有する森林は民有林。

保安林とは

国によって伐採や開発が制限された森林。

ではスギやヒノキなどの針葉樹をやめて広葉樹を植えればいいかというとそうではない。もともと水源地は天然林の中にあって広葉樹でおおわれている場合が多いからわざわざ切ってまた植える必要がない。また、植えたとしても広葉樹は手間がかかるという。「広葉樹が大きく育つまでには時間がかかります。植えた場所によっては人間が世話してやらないかぎりすぐに他の木々や下草にやらてしまいます。水源の確保どころではありません」と話す平野さんは、人間の手で作る水源涵養保安林などは今すぐにやめるべきだと考えている。

さらに問題なのは山奥にある水源地は多くの野生動物の暮らす場であり、人が入らないことから貴重な植物の宝庫でもあるからだ。今、山奥で静かに生活していた野生動物たちはその棲みかを追われつつある。

7月12日に阿蘇山近くで起こった土砂災害の現場。急斜面、特に沢沿いにスギを植林することは大変な災害を招く結果になる。
写真提供:エコシステム協会


菊池市にあるスギ伐採後の土地。下草や灌木が自然に生い茂っている。
写真提供:エコシステム協会

「せからしか!
自分たちで壊しとって」

シカの食害が問題になっている。増えすぎたシカが下草を食べ尽くし、樹皮までかじって木々が立ち枯れてしまっている。ただ、シカがなぜ増えたかははっきりしていない。多くの場合、温暖化の影響で冬場にシカが死ななくなったからと言われている。確かにそういう面もあるだろうが、平野さんは別の見方をしている。

「伐採した後で植林すると当然雑木や下草が生い茂ります。そうするとシカにとっては絶好のエサ場になります。植林後に一定期間下草刈りを行うことでさらにシカのエサを増やしています。エサが増えれば、シカも増えます。」となかばあきれ顔で説明する平野さん。結局、棲みかを追われて本来いるべきでない場所に現れ、豊富にエサがあればそこで繁殖する。人間の行った伐採や植林に原因があるのではないか。

イノシシが里に出てきて農作物を荒らすのも同じだ。広葉樹の森ならば果実や植物の根など多くのエサが豊富にあったが、人工林ではそれらを食べることはできない。ウグイやヤマメなどの川魚も地下水の減少とともに姿を消している。渓流釣りを楽しむどころではない。多くの野生動物たちが山の変化によって影響を受けている。

「カブトムシやクワガタはスギ林では採れません。クヌギやコナラなどの広葉樹の樹液が連中は大好物ですから」という平野さんは子どもたちから昆虫採集の楽しみが失われていくことが寂しそうだ。

間伐とは

木々がある程度成長してきた時期に成長の悪い木を切ってしまうこと。こうすることで、木々どうしが混み合うことなく健康で質の高い木を育てることができる。

全伐(皆伐)とは

すべての樹木を切り倒してしまうこと。


平野さん所有の山林に暮らすイノシシの巣。木の実やキノコなど野生動物の食べ物が豊富だ。
シカの防護ネットから解放されたシカ。本当にシカのせいなのだろうか。
写真提供:エコシステム協会


山が崩れていく

しかし今や問題はもっと深刻だ。

スギの挿し木とは

スギの穂を地面にさして育てること。

「実生のスギ(自然のスギ)の根は真っ直ぐに地中深く入り込んでいきます。さらにそこから小さな根が出て土壌をしっかりとつかみます。ところが、人工林の挿し木のスギはいくら成長しても根を横にのばしていくだけで、地表面にへばりついているだけです。問題はここからです。今、40年から50年の樹齢をむかえた挿し木のスギの大木が全国に数多くあります。そこに大量の雨が降れば、どうなるか。土壌は大きく育ったスギの重量に耐えきれず、スギの木々もろとも土砂となっていっきに崩れ落ちるでしょう。土砂崩れの多発と大木の流出による二次災害の危険性が日本全国の山々で高まっているのです」と平野さんは大きな危惧を抱いている。

実生のスギ
挿し木

倒れたスギにはさらに問題点がある。

「広葉樹の場合、幹は太くても上の部分は枝分かれしています。倒れて流されてもそうした枝がひっかかり途中でばらばらに引き裂かれていきます。ところがスギはそうならない。枝は小さく太い幹が真っ直ぐに上までのびています。このため太い幹がそのままの形で流されて途中で重なりあい川をせき止めてしまう。水量が増えてそれが決壊すると水はさらに勢いを増して、河岸を削り川幅を広げながらスギの倒木を下流の村や町へと押し流していくのです。」と平野さんはスギの倒木の混ざった土砂の恐ろしさを語る。

平野さんによれば多量の雨が降った際、最も倒木の危険性があるのは土壌のしっかりしていない急斜面に植えられたスギ林だという。そしてそうしたスギ林は早急に全伐する必要があると平野さんは訴える。

九州中央山地の様子。
もともとブナ林であった。天然林の多い山では雨が降ると地表から浸透した水はいったん地下水として蓄えられる。その後ろ過されたきれいな水がゆっくりと山の下方へと流れていくしくみだ。逆に人工林では水の吸収が悪く、雨が降ると短時間で山から下流域へといっきに水が流れていく。水に大量に土が含まれていたり、突然水があふれ出したりするのはこのためだ。
写真提供:エコシステム協会
大雨で崩壊した阿蘇山周辺の山
写真提供:エコシステム協会
濁流となった熊本市内を流れる白川
破壊された小川の堤防
写真提供:エコシステム協会
土砂と倒木が家々をのみ込んでしまった。
写真提供:エコシステム協会

藤崎八幡宮の参道。近くを流れる白川が氾濫し、泥が家々に入り込んできた。手前には打ち上げられたコイが見える。

エコシステム会員の向井榮子さんが白川から打ち上げられたコイを助けている。



「植えない森」で美しい日本の山々を残そう

野生動物との出会いに心を洗われるという平野虎丸さん。平野さんのもとには国内の大学の研究者だけでなく海外からも問い合わせがある。野生動物はもちろんだが、人との関わり合いも大切にしている。
熊本のシンボル、阿蘇山。かつては多様な樹木でおおわれて野生動物も数多く暮らしていた。今はスギ林ばかりが目立つ。
写真提供:エコシステム協会

平野さんは作り過ぎている現在の林業について「これ以上、国特に林野庁は天然の森林を切ることをやめて欲しい。そして、林業は林業者に任せてもらいたい。」と話し、林野庁はすでにその役割を終えているという。

では、シカの問題にせよ土砂災害にせよどのような解決策があるのか。

間伐にせよ全伐にせよ切り倒した木はそのまま放置するのがいいと平野さんはいう。足場が悪いためシカはそうした場所には入ってこないからだ。そうすれば倒木を運ぶ必要もない。また、標高800mから900m以上の奥山の伐採は一切行わないことを提案している。そして、最も大事なことは針葉樹も広葉樹もこれ以上植えないことだ。

「自然の力はすごいものです。スギ伐採後の開けた土地にはすぐに野草が繁茂します。この野草がまず土壌を支えてくれます。その後低い木が育ち、やがてその土地の環境に適した樹木でおおわれていきます。人の助けなどまったく必要ありません。」と平野さんは断言する。

エコシステム協会所有の八代の森にある水源
写真提供:エコシステム協会
八代の水源に棲むサワガニ
写真提供:エコシステム協会

エコシステム協会は阿蘇山周辺や菊池市、八代市など熊本県の各地で水源や原野を買い取り野生動植物の保護管理を行っている。ただ、山奥の水源のほとんどが国有林内にあるためその保全は国の手にゆだねられている。平野さんはそうした山奥の水源や天然林がそのまま未来世代へと残されることを切に願っている。



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平野虎丸氏のオフィシャルブログ 国民の生命と財産を守る「植えない森」こちら