トカゲ太郎のワンダー・ワールド
恐竜が蘇る島
天草市立御所浦白亜紀資料館

(取材日: 2013年5月15日)   

化石がゴロゴロ

御所浦(ごしょうら)は熊本県の天草諸島の中にある小さな島だ。御所浦白亜紀資料館は、この島で1997年3月に草食恐竜の化石が発見されたことに始まる。ただ、恐竜化石発見のずっと前、1920年代から研究者の間では貝類の化石がそこらへんにころがる「化石の島」として有名だった。1997年3月に始まった本格調査でもはじめに淡水に暮らす貝類やカメ類、ワニの化石が発掘されていたことから恐竜の化石がいつ発見されてもおかしくないという状況だった。同館の主任学芸員広瀬浩司さんも高知大学の研究生として当時の発掘調査に参加し、肉食恐竜の足跡化石を発見した。

御所浦白亜紀資料館
御所浦白亜紀資料館
手前は地元出身の造形作家が考案したご当地キャラ テラノ君
御所浦で最初に発見された首の長い草食恐竜のすねの部分の骨
御所浦で最初に発見された首の長い草食恐竜のすねの部分の骨
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肉食恐竜の歯。カルノサウルス類のもので、全長が10mを超える国内最大級の肉食恐竜だったと推定されている。尖った上の部分が欠けている。
約1億年前のワニの歯
約1億年前のワニの歯
約1億年前のスッポン類の甲羅
約1億年前のスッポン類の甲羅
姫浦層群のアンモナイトの化石
姫浦層群のアンモナイトの化石

「この島には学生時代からしょっちゅう訪れていました。専門である海水生の貝類の化石がたくさん見つかっていたからです。私だけでなく化石好きの人々にとっては絶好の島でした。だって、庭石に化石なんてことはよくありましたから。」
と、広瀬さんは当時をふり返る。

とはいえ、化石が発見されるには化石が入っている地層が地表に現れていなければならない。御所浦には中生代の白亜紀から新生代の古第三紀までの地層が分布していて、大きく三つの地層群に分かれる。古い順に、御所浦層群、姫浦層群、弥勒層群で、恐竜化石が発見されるのは御所浦層群だ。御所浦層群の年代は約9800万年前とされていて、まさに恐竜が生きていた白亜紀前期に重なる。研究の結果から当時の御所浦の自然環境は山からすぐに干潟が広がっていたと推定されている。また姫浦層群は、約8500万年前の地層で当時の御所浦は数百から千メートルの深い海の中にあったようだ。弥勒層群は約5500万年前で、陸と浅い海であったことを示す化石が見つかっている。

恐竜時代の自然を知る

それにしても陸だったのか海だったのか、陸上ならばどんなところだったのか、はたまた浅い海か深い海か、どうやって知るのだろう。広瀬さんの専門は海水生の貝であるトリゴニアだ。二枚貝のトリゴニアは比較的浅い海に生息していた。水管をもたないトリゴニアは身体の一部を水面に出して呼吸する必要があったからだ。トリゴニアの化石が多く見つかるとういことは、当時の環境が浅い海か干潟であった可能性が高い。他にも地層の色や地層に混ざっている砂の粒の大きさなども、その時代の環境を知る大きな手がかりになる。

トリゴニア砂岩採集場で発掘された様々な貝化石
トリゴニア砂岩採集場で発掘された様々な貝化石
日本固有のトリゴニア
日本固有のトリゴニア
御所浦からはまだ完全なかたちの恐竜化石は見つかっていないが、化石の破片から様々な種類の恐竜が生息していたと考えられてる。
   御所浦からはまだ完全なかたちの恐竜化石は見つかっていないが、化石の破片から様々な種類の恐竜が生息していたと考えられてる。

「地層は水の流れでできます。流水の速さがゆっくりであれば比較的きれいに土の層と砂の層に分かれます。だから雨や川で流された地面の粒は、ふつう大きな粒の層が一番下にきて、細かくなるほど上の層に溜まります。ところが、粒の細かい土の層に大きな砂粒が多く混ざっている地層が御所浦層群の中にはあります。これは土砂崩れなど急激なかく乱が頻繁にあったことを示しています。このことから平野がほとんどなく山からすぐに干潟が広がっていたと考えられるのです。」
と広瀬さんは話し、化石はもちろん地質や地層をよく調査することで恐竜時代の地形も類推できるのだという。

それでもたいてい地層は海であったり陸であったりを長い時代の中で繰り返すため、川自体がどのくらい大きかったのかなど、まだまだはっきりと分からないことも多くある。広瀬さんは研究を進めることで当時の環境をできるだけ正確に目に見えるかたちで復元したいと考えている。

化石と人と

御所浦恐竜資料館は大きな博物館では決してない。でも、収集された化石の数や質は博物館施設なみに充実している。また同館館長の長谷義隆さんは第四期の植物を専門としているほか、淡水生の二枚貝を研究している学芸員の鵜飼宏明さんは東南アジアでの発掘調査に参加するなど国際的にもその活動を広げている。さらに京都大学から来た須黒弘美さんは角竜などの植物食恐竜の研究のため同館に席をおくなど、学術研究の拠点にもなっている。

1998年中学生が発見した草食恐竜(鳥脚類)の尻尾の骨
1998年中学生が発見した草食恐竜(鳥脚類)の尻尾の骨
恐竜絵画コンクールの作品
恐竜絵画コンクールの作品
ニガキ化石公園
ニガキ化石公園

同館はまたできるだけ多くの人々に古生物について興味をもってもらうため、絵画コンクールを開いて毎年3000点以上の応募作品が全国から集まってくる。さらに一番の人気を誇っているのが化石採集体験だ。毎年1万人以上の人々がハンマー片手に化石探しに熱中し、ビニール袋いっぱいに化石を持ち帰っている。

トリゴニア砂岩化石採集場
トリゴニア砂岩化石採集場
   セキツイ動物や発見が稀な化石以外であれば原則的に持ち帰り自由だ。
ニガキ化石公園の貝化石
ニガキ化石公園の貝化石。この公園にはこのような浅い海に暮らしていた貝の化石を含む大小20個ほどの岩と解説が並んでいる。
1997年5月に発見された肉食恐竜(獣脚類)の足跡化石
1997年5月に発見された肉食恐竜(獣脚類)の足跡化石。全長5mほどと推定される肉食恐竜が実際に御所浦周辺に暮らしていたことを示している。
イグアノドン類の歯化石
イグアノドン類の歯化石。歯のすり減りが観察できる。

化石から今を思う    - 天草ジオパーク構想 -

恐竜化石の発見と研究は御所浦を新たな方向へと展開させている。天草ジオパーク構想だ。

ツメレンゲ。全国で観察が難しくなった大きさ10cmほどの蝶、クロツバメシジミがここのツメレンゲに卵を産むことから大切に保護されている。
アンモナイト館周辺に生えるツメレンゲ。全国で観察が難しくなった大きさ10cmほどの蝶、クロツバメシジミがここのツメレンゲに卵を産むことから大切に保護されている。
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アンモナイト館が建てられて大切に守られている。
草食恐竜の様々な部位の骨
草食恐竜の様々な部位の骨

ジオパークとは、地質や地形と関係の深い貴重な動植物や歴史、文化などを大切に保護している地域のことを指す。御所浦はすでにジオパークとして認定されているが、これを天草諸島全体に広げていこうとしている。

御所浦だけでなく、上天草ではアンモナイトが河浦では有孔虫の化石が見つかるなど、天草地域には白亜紀や古第三紀の層が全体に広がっている。また、太古の昔からしゅう曲や侵食などの変動が繰り返された結果、天草の大小の島々には複雑で美しい地形や海岸線が残されている。そのため天草は牛深のサンゴ礁や永浦島のハクセンシオマネキの生息地など豊かな生態系にも恵まれている。さらに豊富に採れる岩石を利用した石橋や石垣など古くから伝わる人々の営みが残っている。

最近発見された爬虫類の皮ふ痕化石。福山県勝山市から産出された恐竜の皮ふ痕化石に次いで国内二例目。
最近発見された爬虫類の皮ふ痕化石。福山県勝山市から産出された恐竜の皮ふ痕化石に次いで国内二例目。
アクロカントサウルスの頭骨の前で、恐竜化石と環境の変化について説明する広瀬さん。頭部にカキ殻がくっついた恐竜化石が見つかり、これは死体がいったん海の底に沈んだことを示しているという。
   アクロカントサウルスの頭骨の前で、恐竜化石と環境の変化について説明する広瀬さん。頭部にカキ殻がくっついた恐竜化石が見つかり、これは死体がいったん海の底に沈んだことを示しているという。
国内最古の大型ほ乳類であるコリフォドンの顎。約5000万年前のもので弥勒層群から発見された。カバに似た草食のほ乳類。
国内最古の大型ほ乳類であるコリフォドンの顎。約5000万年前のもので弥勒層群から発見された。カバに似た草食のほ乳類。

「天草下島と島原半島の間の海域にミナミハンドウイルカが棲みついています。起伏のある海底や複雑な海底地形がイルカのエサのイカやアジを引き寄せているからです。ここのイルカたちは珍しく定住しているからイルカウオッチングでは90%を超える確率でイルカたちの姿を見ることができますよ。今の自然と地殻の変動の歴史が結びついたいい例ではないでしょか」
という広瀬さんは、御所浦の化石とともに天草の自然や歴史にも注目が集まることを願っている。




御所浦のひとびと

いきなりティラノサウルスが迎えてくれる。

御所浦には恐竜化石の発見以来、多くの観光客や修学旅行生がやってくる。「民泊」というユニークな取り組みがあって、普通の家庭に宿泊し、魚釣りや山菜取り、ミカン狩りなど、島の人々の暮らしを体験できる。

民宿「もりえだ」もそうした修学旅行生を受け入れている。ただこの民宿が他と少し違うのは化石目当ての学生たちを20年前から世話してきたことだ。
「小さな島ですからね、泊るところどころか食べるところも限られていました。お腹を空かせた学生が何か食べられないかと押しかけてくるわけですよ。」
という森枝さんは、当時電気屋さんを営みながら食事や寝る場所を提供していた。広瀬さんもまた、森枝さんに助けてもらった一人だ。研究者の熱意と地元の人々の協力があって今の発展がある。

民宿「エンジョイもりえだ」

民宿「エンジョイもりえだ」は地元の農産物を提供する地産地消の店として認定された。奥さんが採れたての有機野菜や果物を食卓に並べてくれる。



夕食は天然の生け簀からその場で調達
夕食は天然の生け簀からその場で調達。