トカゲ太郎のワンダー・ワールド
地球のカブトガニを救え
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(取材日:2015年6月17、18日)

カブトガニ国際ワークショップ in 佐世保

世界中のカブトガニ研究者が一同に会して、カブトガニ研究の現況とその保護について話し合う第三回カブトガニ国際ワークショップが、今月15日から19日まで長崎県佐世保市内のホテルで開催された。このワークショップは、地元の大学、水族館のほか、保護に取り組む人々も参加しており、専門家と一般の参加者が協力してカブトガニの保護について意見を交換する場ともなった。


 
 

無セキツイ動物一番乗り

ジョン・タナクレディ博士は、環境調査及び沿岸モニタリングセンター(C.E.R.C.O.M.)のディレクターである一方で、ニューヨークのロングアイランドにあるモーレイ大学地球環境領域の教授でもある。タナクレディ博士はIUCN(国際自然保護連合)のカブトガニ・スペシャリストグループの立ち上げに関わってきた。

アメリカにはアメリカカブトガニの一種のみが生息している。分布はメーン州からフロリダ沿岸までの広い範囲にわたる。アメリカ全体の生息数は今のところ安定しているものの、ロングアイランドでは、数年前に比べて全体で約9%が減少していてこれは非常に速いペースと言わざるを得ない。タナクレディ博士はロングアイランドの111か所でサンプルを採集しモニタリングを継続して、これ以上の減少を防ごうとしている。「生息地の状態を良好に保つことがカブトガニを増やすための最も有効な手段だ。そのために、生息している干潟や沿岸海域がどのような状態にあるのか常に調査する必要がある。」と、タナクレディ博士はモニタリングの重要性を強調する。さらにタナクレディ博士は、カブトガニ・スペシャリストグループのメンバーとして、世界のカブトガニの宣伝にも力を入れたい考えだ。
「ジャイアントパンダやアフリカゾウなどのようにカブトガニが知られるようになったらどんなに素晴らしいか。もしそうなったら無セキツイ動物の中で初めてということになる。」
と、笑顔で語った。

 

アジアのカブトガニの未来

ジョン・タナクレディ博士と單錦城博士
ジョン・タナクレディ博士と單錦城博士

アジアには、カブトガニ、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニの三種のカブトガニが生息している。それらは、極東と東南アジアの沿岸域、インドの北東沿岸域にそれぞれ分布している。この地球上でカブトガニは古代の昔から生き続けてきたのだけれど、今アジアのカブトガニは深刻な危機を迎えている。

香港城市大学の單錦城博士は、タナクレディ博士とともに2007年からカブトガニ・スペシャリストグループの結成に尽力してきた。膨大なデータを集め、分析する作業を進めた努力が実って、2012年にカブトガニ・スペシャリストグループはIUCNの公認となった。けれども彼らはすぐに新たな目標に向かって動き始めている。フォーダム大学のマーク・ボトン教授は次の目標についてこう説明する。
「IUCNのレッドリストに絶滅危惧種として記載されることによって、保護が進む保証はない。しかし、IUCNのお墨付きは私たちの保護活動を推進する上で大きな力となる。」
一方、カブトガニの情報が蓄積さているアメリカに比べて、アジアの側では十分には程遠い状態にある。單博士がアジアの現状について次のように語る。
「今、緊急に必要なことはタイの人々とつながり、データを得ることだ。ベトナム、ブルネイ、ミャンマーについても同じことが言える。データの中でも生息地がどのような状態にあるのか特に知りたい。とにかく、アジアの現状を私たちはほとんど把握できていない。」
一方、單博士のお膝元、香港のカブトガニも子孫を残すにはかなり難しい状況にある。だが、單博士は楽観的な姿勢を崩さない。
「今はカブトガニを愛する若い世代が育ってきている。それに、科学者だけでなく様々な分野の人々がカブトガニに関心を持っている。だからこそ、この集まりを会議と呼ばず、“ワークショップ”と呼んでいる。話し合いと行動の両面が大切だ。」と自信をもって答えた。

 

4億5千万年の贈り物

カブトガニの保護が人の命を救う

ジャック・レビン博士
ジャック・レビン博士

カリフォルニア大学薬学部教授のジャック・レビン博士は、LALテスト(リムルス変形細胞溶解物テスト)の先駆者だ。レビン博士は、1968年にアメリカブトガニの血液が驚くべき機能を持っていることを発見したのだ。そして、この発見がLALテストの本格的な開発へとつながる。

アメリカカブトガニ(学名:Limulus polyphemus)の血液は、バクテリアやウィルスが体内に侵入する前に発見する。つまり、いったん血液が侵入を探知すると、侵入者を取り囲んでそのまま固まってしまうのだ。ヒトの血液もまた空気に触れると凝固するが、それはヒトとアメリカカブトガニの血小板がよく似ていて、同じような働きをするからだ。でも、カブトガニの血液の探知能力はヒトの血液に比べて桁違いに優れている。カブトガニは、ヒトのように抗体を作って侵入者を体内で退治する免疫機能をもっていない。だから、バクテリアなどの侵入者が体内で増殖する前に探知し、処理する必要があるのだ。一方、抗体を作れるヒトにも問題がある。それは、内毒素と呼ばれるものだ。内毒素はグラム陰性細菌(大腸菌やサルモネラ菌、赤痢菌など)の中に含まれている。厄介なことは、これらの細菌が医薬品や医療機器に付着すると取り除くことが難しいということだ。そのため、薬や機器がこれらの細菌によって汚染されているかどうか事前に知ることが不可欠となる。ここで登場するのが、LALテストだ。

講演でレビン博士は次のように説明している。
「内毒素を含む細菌はどこにでもいる。内毒素によって発熱や臓器不全などの深刻な病状が引き起こされるほか、場合によっては死に至るケースもある。だから、LALテストは人々の健康を守るために、今最も必要とされているのです。」
LALテストはまた、血液や尿などの人間の体液に侵入した内毒素を探知することも可能で、症状が内毒素によって起こったものなのか判別することもできる。

レビン博士は講演の最後をこのように締めくくった。

「カブトガニの保護は私たちにとって喫緊の課題です。そのためには生息地の破壊を止めると同時にそれを保護することが大切なのです。」

 

思いは同じ

カブトガニの研究者から生物資源を利用する産業においてカブトガニがどのように扱われているのか心配する声が上った。サウスカロライナ州にあるチャールズ・リバー・ラボラトリーズ社のジェームズ・クーパー博士は、40年以上LALテストの研究を続けてきた。クーパー博士は、研究と同時にカブトガニの血液を抜いた後、カブトガニを無事に海へ返す枠組み作りを進めてきた。そして、1973年にFDA(アメリカ食品医薬品局)がこの取り組みを法律として定めた。カブトガニの血液を利用している薬品会社の管理体制についてクーパー博士はこう説明している。
「カブトガニは適切な時期に海から施設へと移送しなければならず、その際には直射日光を避けなければなりません。また、血液採取ではケガなどをしないようカブトガニの扱いには細心の注意をするようにしています。血液採取後に海へと返す作業は迅速に行われますが、その前にケガのチェックと洗浄が不可欠です。このような様々な取り組みによって死亡率は1998年からすると10-15%まで低下しました。」

確かにこのような管理体制の改善は徐々に成果を上げつつある。だがさらに、幼体が育つ場所である干潟の保護とエサ産業の規制強化が必要であると、クーパー博士は訴える。アメリカではカブトガニをウナギや巻貝のエサにしているからだ。
「サウスカロライナ州ではカブトガニの保護区域を設定しています。それ以来、カブトガニの生息数は増加しています。」
とクーパー博士はカブトガニとの共存を模索している。

アジアでは、カブトガニを食糧としているところがある。中でもメスの卵がよく食されている。そうした国々における外食産業からの圧力は生息地の減少とともに深刻な問題となっている。人間だけがカブトガニを必要としているだけでなく、多くの生き物たちがその存在に依存している。渡り鳥は移動の途中にカブトガニの卵を食べて栄養を得ているし、ウミガメはカブトガニをエサにしている。

 

みんなカブトガニが欲しい

デラウェア州にあるエコロジカル・リサーチ&デベロップメント社・社長のグレン・ガーヴリさんが、世界のカブトガニを取り巻く現状を説明してくれた。
「アメリカではカブトガニの捕獲量に制限があり管理されています。残念ながら、アジアにおいてはそのような制限は事実上存在しません。そしてアジアの生息数は危機的なレベルにまで落ち込んでいます。」
薬品に使用するカブトガニの血液の需要は劇的に増え、アメリカでもアジアにおいても生息数の限界に達している。特にアジア・カブトガニに対する中国での需要は伸びていて、中国向けのアジア・カブトガニが世界中から集められている。一方、中国では生息地へ戻す義務はない。ガーヴリさんは、薬品会社が世界のカブトガニの生存とその生息地について考慮している売り手を選んでくれることを強く望んでいる。

土屋圭示先生
カブトガニ保護の先駆者

土屋圭示先生は日本とアジアにおけるカブトガニ保護活動の先駆者として世界中で知られている。土屋先生はどのようにカブトガニのオスとメスを見分けるか講演で語り、最後に「この素晴らしい生き物の命を決して奪わないで欲しい。数百万年前から生きてきたカブトガニは数百万人以上の人々の命を救えるのです。」とカブトガニの大切さをワークショップに集まった人々に訴えた。


アメリカ魚類野生生物局デラウェア支部 シャロン・クリーマーさん
カブトガニの知識を伝える道具箱
アメリカ魚類野生生物局デラウェア支部

Tカブトガニ情報満載の教材である「カブトガニの道具箱」は、誰でもオンラインで入手できる。この道具箱の効果的な利用法について講演を行ったシャロン・クリーマーさんは、「この道具箱が多くの言語に翻訳されることで、様々な国々の人々がカブトガニの知識を共有することを望んでいます。」と語った。


マレ―シア国際イスラム大学、マレーシア ジョン・アクバルさん
カブトガニの位置と目撃情報を知るアプリ
マレ―シア国際イスラム大学、マレーシア

このモバイル・アプリは世界中のカブトガニの生息情報を提供してくれる。4種それぞれの特徴のほか、分布域、最新の生息地域を地図上に示すなど、視覚情報による分かりやすい内容になっている。講演に立ったジョン・アクバルさんは、「専門家だけでなく漁業従事者や一般の人々も利用できるアプリです。」として、アプリの使用で保護の輪が広がることを望んでいる。


九十九島水族館 川久保晶博さん
九十九島におけるカブトガニ研究と保護について
九十九島水族館

九十九島は長崎県の西海国立公園内にある。同館は九十九島の自然環境の研究と保護を行っている。九十九島は多くの無人島からなっており、複雑な海岸線が保たれているのが特徴だ。そのため、干潟や、潮溜まり、岩礁など多くの生き物たちが生息できる環境が残されている。驚くのは80%以上の海岸線が手つかずの自然のまま残されていることだ。

同館は地元の大学や保護団体とも協力してカブトガニの保護を進めており、同館の川久保晶博さんは講演の中で「この九十九島の貴重な自然を未来世代まで伝えていきたい。」と、地元の人々との協働作業の意義を語った。


ネイチャーソサエティ、シンガポール ケリー・ペレイラさん
市民のカブトガニの知識を教育と保護に活かす
ネイチャーソサエティ、シンガポール

ネイチャーソサエティシンガポールは、カブトガニの調査・保護プログラムを実施している。これは地元の人々と共に実際に干潟に入って生息数と分布域を調査するものだ。このほか、漁網に絡まったカブトガニの救助や生息地の清掃を行っている。これらの作業を通じて参加者はカブトガニに対する理解が深まり、その評判から現在プログラムに参加するボランティアは毎回100名を超える盛況ぶりだ。このほか、学校や政府機関の参加もある。ネイチャーソサエティのケリー・ペレイラさんは、プログラムが一定の効果を挙げていることに満足した様子で、「一般的にカブトガニは必ずしもカワイイ生き物とは見られていません。私たちはそうしたネガティブなイメージを変えて、カブトガニに対する人々の姿勢をいい方向へと向けたいのです。その意味からもローカルから国際的なメディアまでこのプログラムに注目してくれたことは成功でした。そして、それが歴史と文化の両面で大切なカブトガニを守ることにつながると思います。」と胸を張った。


香港の高校生によるカブトガニDNA調査
香港の高校生によるカブトガニDNA調査

香港のカブトガニ生息数は残念ながら激減している。その理由を知るため地元の高校生が漁師の協力で得たカブトガニから血液を採取し、DNA分析を行った。その結果、ほとんどのカブトガニが同一地域から発生していることが分かった。これにより、高校生たちはカブトガニが遺伝的なつながりを維持できるか心配している。このほか、海岸の清掃や幼生の放流にも参加した。さらに、香港と日本の両方でカブトガニに関するアンケート調査を行い、日本人の意識の高さに驚いていた。なお、香港城市大学の協力がこの活動を支援している。


長崎県立大学のカブトガニ保護
長崎県立大学のカブトガニ保護

長崎県立大学の西村千尋教授とゼミの学生は、水族館と保護団体と協力して活動している。保護活動の中には、水族館で子どもたちとカブトガニの折り紙作りや同じゼミの学生に対してカブトガニについてのレクチャーが含まれる。これらの啓蒙活動によって若い世代の間でカブトガニを守る責任感が生まれている。

さざ川のカブトガニを守る会
さざ川のカブトガニを守る会

同会は佐々川に暮らすカブトガニを保護するため、川の清掃と産卵地の保全に取り組んでいる。このほか、幼生を育てて放流し生息数を増やす活動や干潟での観察会を行って地元にとってカブトガニがいかに貴重かをアピールしている。

ファキル・モハン大学 インド・オディシャ州 ビスワル教授
インドのカブトガニ守る挑戦
ファキル・モハン大学 インド・オディシャ州

インドにいる2種類のカブトガニは北東沿岸域に生息している。しかし、干潟や産卵地の減少によって幼体の密度が極端に減ってしまった。この状況を改善するため有精卵を研究施設で保護した結果、98%が無事孵化した。その後幼体は、自然から取水された海水と海浜の砂粒を敷き詰めた施設でゴカイをエサに育てられた。そして、孵化から90日後に幼体は海へと放される。ビスワル教授は「放された若いカブトガニはうまく生き延びているようで、インドの生息数は徐々に回復している。」とし、人口孵化と放流に自身をのぞかせた。