トカゲ太郎のワンダー・ワールド
キシワダワニと
きしわだ自然資料館

(訪問日 2013年11月19日)

大阪に暮らしていたワニたち

今から約50年前の1964年、大阪大学理学部新館の工事現場でワニの化石が発見された。これは新生代(約6500万年前から現在)以降に生きていたワニと分かり、「日本にもワニが暮らしていた!!」と当時大きな話題となった。そして発見現場の豊中市待兼山にちなんで「マチカネワニ」と呼ばれている。

それから30年後の1994年12月、再び大阪で新生代のワニが発見されたが、今度は山ではなく海に近い岸和田市流木町で行われていた工事現場からだった。地下7.5mの穴のなかで下水道工事を行っていた作業員の方が化石の一部を発見し、市に通報したことがきっかけだった。師走の忙しい時期に化石の破片など見過ごされがちだが、この作業員の方が以前にも化石を見つけた経験があったことが幸いした。とはいえ発掘作業は現場に駆け付けた市職員の手でわずか数時間の内に済ませなければならなかった。直径2.4mの狭い坑内で発掘できる範囲は限られていたものの頭部を中心に多くの骨片が採取することができた。化石といっても比較的新しい骨であるため脆く、樹脂で固めるなどの復元作業には3年かかった。その後、きしわだ自然資料館に収蔵され「キシワダワニ」の通称で親しまれている。

きしわだ自然資料館。南海電鉄の岸和田駅から歩いて10分ほど。開館時間10:00~17:00(毎週月曜日が休館日)。小中学生は無料、大人200円。
きしわだ自然資料館
南海電鉄の岸和田駅から歩いて10分ほど
開館時間10:00~17:00
(毎週月曜日が休館日)
小中学生は無料、大人200円

キシワダワニのいた頃

キシワダワニはクロコダイル科・トミストマ亜科に属する絶滅したワニで、現在トミストマ亜科で生き残っているのはマレーガビアルのみだ。マチカネワニも同じトミストマ亜科に含まれるけど、鼻先がキシワダワニより広いことや頭骨の孔の形、骨の縫合線の形などの違いから別種ではないかと指摘されている。キシワダワニが暮らしていたのは第四紀更新世中期の約60万年前。ワニというと暖かいところに生息していると想像しがちだが、キシワダワニのいた頃は今よりも少し涼しかったと推定されている。

きしわだ自然資館のアドバイザーで地質・堆積学が専門の濱塚博さんによると最近になってキシワダワニの生息環境が正確なかたちで解明されてきたという。

キシワダワニの実物化石標本
キシワダワニの実物化石標本

キシワダワニが発見された大阪層群には花粉や珪藻化石も含まれていて、その化石を分析した結果から当時の気候を推定しています。ただ、例えば花粉は標高の高いところから飛んできた可能性がありますし、珪藻もどこか他の場所から流されてきたかもしれません。そこで最近は北極などで行われているように水や氷に含まれる酸素の同位体を分析して当時の気温を推定する手法も加えられています。ですから花粉などの示相化石との組み合わせで過去数十万年前の範囲であればかなり正確な生息年代や気候の様子が分かるようになったのです。」
と、濱塚さんは最新の研究成果について教えてくれた。

トカゲ太郎

関西一体に広がる大阪層群

ワニ化石が見つかった大阪層群という地層は約300万年前から約30万年前の間に浅い海に堆積した海生粘土層で、現在の大阪平野、京都盆地、奈良盆地、播磨平野、淡路島などの地下に広がっている。下の層からMa-1、Ma0、Ma1・・・Ma10と名づけられて、海成層だけではなく火山灰層も間に挟まれるようにたまっている。キシワダワニの含まれていた層はその中のMa5海成層で約60万年前に堆積したと考えられている。花粉や珪藻から当時の山や丘側にはブナ属などの冷温帯林が広がっていて、平野から湾岸部の方には照葉樹林や温帯林が分布していたと考えられている。

キシワダワニと仲間たち

キシワダワニの頭骨は上あごの歯が地表に向いたかたちで発見された。このことからこのワニは死んだ後、腐敗によって発生したガスが体内にたまったことで腹が上を向いた状態になり、そのまま川によって干潟まで流されて埋まり化石となったと推定される。キシワダワニの頭骨は眼から鼻先にかけて極端に細くなっていて水の抵抗が少なく魚を主に食べていたと考えられている。また、キシワダワニのいた水辺には同じ頃に生きていたムカシマンモスゾウ(約120万年前~約50万年前)も姿を現していたかもしれない。

大阪ではキシワダワニの前に高槻市からもワニ化石が発見されている。約100万年前に生息していた小型のワニだが、残念ながらその化石は背骨の一部と歯1本が見つかっているだけで詳しいことはまだ解明されていない。このほか、北海道、岩手、静岡、滋賀、福岡など全国各地でワニ化石は見つかっていて、長い間ワニは日本列島に暮らしていたようだ。

キシワダワニとマチカネワニの頭骨を比べる濱塚さん。頭部の大きさからキシワダワニは体長約5m、マチカネワニは体長約8mと推定されている。
    キシワダワニとマチカネワニの頭骨を比べる濱塚さん。頭部の大きさからキシワダワニは体長約5m、マチカネワニは体長約8mと推定されている。

ワニだけじゃない、

きしわだ自然資料館

きしわだ自然資料館キシワダワニの発見直後の1995年に開館した。初代館長はマチカネワニキシワダワニの両方の発掘に関わった千地万造さん。設立のきっかけは岸和田在住の蕎原文吉さんが自ら収集した400点以上の剥製を寄付したことだ。その後、2011年12月には展示の一部を新装した。館内は関西周辺で発掘された化石コーナーからはじまり、山地、丘陵、ため池、平地、海とそれぞれの環境に合わせた展示を観察できる。さらに自然への興味を深めるための同館独特の展示「チリメンモンスター」がある。

チリメンモンスターとは海産物のチリメンジャコ(カタクチイワシの稚魚)に時々混ざっている他の生き物のことだ。同館では加工過程で取り除かれたタチウオやタツノオトシゴなどの珍しい稚魚やタコ、イカ、エビなど様々な生き物を漁協から譲り受けている。これらを来館した子どもたちが種類ごとに選り分けて顕微鏡で観察し保存する。この過程を通じて海の生き物の多様性や環境について考えてもらおうというねらいだ。

多数のはく製に圧倒される。きしわだ自然資料館の目玉の一つだ。
多数のはく製に圧倒される。
きしわだ自然資料館の目玉の一つだ。
岸和田周辺の海で捕獲されたマダコ。手をかざすと反応する。
岸和田周辺の海で捕獲されたマダコ。
手をかざすと反応する。

だんだん集めていきました

同館の学芸員平田慎一郎さんの専門は昆虫類の生態学だ。平田さんはこれまで岸和田市のチョウやガ、トンボなどの生息状況を調査してきた。昆虫の中には様々な種類の植物を食べるジェネラリストと決まった植物のみを食べるスペシャリストがいる。こうした植生と強く結びついた昆虫の生息数や食べ物を調べることでその生息地における植物の種類や繁茂している状況についても知ることができる。

「都市開発などによって森林の姿は複雑に変化していきます。また、河川やため池の改修や消失はトンボ類などに強く影響しています。昆虫類のデータを集めることは身の回りの自然がどのように変わっていくのか知ることになるのです。」
と、平田さん研究の目的について説明する。

ただ、広い森林や広域を流れる川を一人で調査することは限界がある。そこで同館の友の会のメンバーや地元の愛好家とともに昆虫の生息地をまわり標本となる個体を採取した。
「学芸員だけでなく地域の多くの人々もいっしょにコツコツ集めたおかげで様々な実物標本をそろえることができました。リニューアルオープンの際に地質分野の収蔵品を充実させることができたのも協力して頂いたおかげです。」
と平田さんは同館と地元の人々との結びつきを強調する。

平田さんはカマキリモドキ(ウスバカゲロウの仲間)の生態を解明した。カマキリモドキは体長が2cmほどの小さな昆虫。でも、クモの卵のう(多数の卵が入っている袋)に自分の卵を産み付け、卵がかえると幼虫はクモの卵を食べて成長するという、恐ろしい習性をもっている。
    平田さんはカマキリモドキ(ウスバカゲロウの仲間)の生態を解明した。カマキリモドキは体長が2cmほどの小さな昆虫。でも、クモの卵のう(多数の卵が入っている袋)に自分の卵を産み付け、卵がかえると幼虫はクモの卵を食べて成長するという、恐ろしい習性をもっている。

同館はキシワダワニだけでなくモササウルス類や海の生き物の展示にも力をいれており、12月1日から来年2014年3月2日まで特別展『となりの大阪湾』を開催する。


トカゲ太郎
モササウルス類の化石標本にも力を入れている
モササウルス類の化石標本にも力を入れている