トカゲ太郎のワンダー・ワールド
ヒグマと共に暮らす その2

  
(取材日: 2013年4月)
<<< ヒグマと共に暮らす その1

欠かせないヒグマの行動調査

初春、ヒグマは冬ごもりの穴からそろそろ出てくる。このため三月初旬に北海道熊研究会の門崎允昭さんは、札幌市から近い定山渓の百松沢国有林での行動調査を行った。調査は全行程9km、6時間かけて行われた。林道から沢づたいに積雪50~80cmの中をカンジキで山に分け入る。地図で常に現在地を確認しながら1kmごと約40分かけて調査する。このような調査では食糧や水のほか、磁石やカンジキの修理具、サングラス、手袋など遭難の危険のないようにしっかり用意しておくことが欠かせない

一口に調査といっても雪上の足跡の深さや大きさなどを手がかりにつけられた時間や個体の大きさなどを推定することは長年経験を積んでいなければ難しい。またヒグマは目覚めた後に湿地に生えるザゼンソウやミズバショウを好んで食べることやフンの状態(冬ごもりの間の留フンは通常のフンとは違う)など、自然観察を通じた専門的な知識が必要になってくる。

   ヒグマは北海道全土に生息しているが、知床半島と渡島半島(おじまはんとう)の生息密度は比較的高いようだ。

今回の調査では林道から約2kmの地点で2才過ぎの子グマとその母グマのものと見られる足跡を発見した。また約3kmの地点では大人のオスの足跡も見つかった。どの足跡も24時間以内につけられたもので、このほかにも大人のヒグマのものと見られる足跡が沢づたいに延々と残されていた。沢の先にある山奥の斜面に冬ごもりのための穴があるらしく毎年この時期に足跡が見つかっている。

門崎さんがこのような調査を続ける理由は、ヒグマの現在の行動を確認しヒグマの保護に役立てるとともに、人々とヒグマの不用意な遭遇が避けられるようにしたいためだ。

人の安全を守るため

死亡事故を無駄にしない

今年4月16日、北海道南部せたな町でヒグマによる人身事故が起きた。事故にあわれた方は52才の女性で、山菜のカタクリを採りに山に入った際に襲われたようだ。

事故現場の状況は、海岸沿いの道750号から沢沿いに約50m登ったところに被害者の衣服が散乱しており、さらにそこから40mほど上がった地点に被害者が倒れていた。ご遺体の手足の筋肉が食べられていて、近くに一頭分の足跡が残されておりハンターの見解では襲った熊は3歳ほどのオスではないかと推定されている。

事故現場の映像を確認した門崎さんは近くにあったフンの内容物に青草やドングリの外皮が混ざっていることから冬ごもり穴から目覚めたばかりのヒグマではないかと見ている。

門崎さんによればこうした人身事故の起こる原因は大きく三つに分かれるという。一つは遊びの対象として人に近づく、もう一つは通り過ぎるためやエサ場から排除する目的、そして最後に人をエサと見なして襲う場合だ。今回は残念ながらエサとして襲ったと門崎さんは見ている。理由は内臓ではなく筋肉部が先に食べられていたことや衣服が剥がされていたからだ。このほかにも遺体を移動させた痕があったり、笹や草、土などで遺体が覆われていたりしていたら人を食べ物として見なしていたと考えられる。

母子熊の足跡
1は母熊、2と3は小熊の足跡
小熊達は母熊の両脇を添い歩く
写真提供:北海道熊研究会 門崎允昭氏


西興部村役場の中内太氏と高田直紀氏が撮影したアルビノのヒグマ。鼻先が赤身を帯びている。
写真提供:北海道熊研究会 門崎允昭氏

熊に襲われない

北海道でヒグマによる人身事故が頻発しているわけでは決してない。ただ、不幸なことに平均して1年で一回起きている。被害者はハンターや山菜取りの人びとなどだ。今回のような事故が起こるのは山菜を見つけられる場所とヒグマのエサ場が一致しているからだ。

こうした事故を防ぐにはホイッスルを鳴らしながら歩くことで突然ヒグマと遭遇することを未然に防ぐことができる。また、不幸にして出くわした時は大声をあげて熊を近寄らせないようにする。それでも離れず、襲ってきて逃げられない状況であれば反撃するしか生き延びる方法はない。ヒグマに襲われて生還したほとんどの人が何らかの方法で反撃しており、門崎さんによれば鉈による攻撃が効果的だという。

ヒグマは雑食性なので、木の芽や花、葉、樹皮、種子などの植物のほか、アリやハチなどの昆虫やサケ、マスなどの魚類、エゾシカや海生ほ乳類(主にアザラシやクジラの死体)などの大型ほ乳類といった動物も食べる。また、共食いもする。人を襲うことは頻繁ではないが、ヒグマの生活の場に入る場合は万全の用意が必要だ。



>>> ヒグマと共に暮らす その3