トカゲ太郎のワンダー・ワールド
ヒグマと共に暮らす その3
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(取材日: 2014年4月)
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今月4日、北海道南部のせたな町大成区太田の山林で男女二人がヒグマに襲われた。同町では昨年も同じ時期にヒグマによる被害が起きており(詳しくはこちら)、同じ個体である可能性が高まっている。

事故の概要は次のとおりだ。

4月4日の午後2時ごろ、苫小牧在住の女性(45才)と男性(60歳代)がアイヌネギ(ギョウジャニンニク)採りの帰り道に被害にあった。ヒグマは背後から女性に襲いかかり、右腕にかみついたようだ。いっしょにいた男性がとっさにナタでヒグマの顔を叩き、ヒグマはそのまま逃げ去った。男性は勢いあまって自分の脚を傷つけたが、女性とともに命に別状はなかった。

アイヌネギについて

ギョウジャニンニクとも呼ばれる4月から5月にかけて採れる山菜。天然のアイヌネギは、十分に育つまでに3~5年かかるためとても貴重だ。ニンニクによく似た香りをもち、ビタミンやミネラルに富んでいる。

山菜採りに危険はつきもの

北海道野生動物研究所の門崎允昭所長は今回の事故を起こしたヒグマについて
「昨年と同じクマならば4才ほどの若い個体だ。体長が約2mと聞いたが、道南のヒグマは道東や道北のものと比べて身体が小さく、そのような大きな個体はいないはずだが。」
としている。また、被害の状況について再び人を襲った理由は明らかでないとしながらも、冬ごもりの穴から出てきたばかりで筋力が衰えており、這った状態で襲った可能性が高いという。

残念ながら昨年と同じように山菜採りに来ていた人が襲われた。現場は昨年の事故の場所から直線距離で9kmほど離れている。毛無山と天狗岳の沢の下流にあたるところで日蔭にはまだ多くの雪が残っている。ただ、雪のないところでは山菜採りができる。沢沿いであるためヒグマもまた容易に行き来できるようで、ザゼンソウやフキノトウ、イラクサなどの野草を食べにそのような場所に現れた可能性がある。

門崎所長は1970年からヒグマの調査を現場に入って行っている。今回の事故で救われたことは“ナタでの反撃”だという。
「ナタが最も有効です。山仕事をする場合、ナタはいろいろなことに使える上に昔から命綱だと言われています。反撃するとクマを余計に刺激するという意見もありますが、襲われた人の多くが反撃して生還できたのです。今回の事例はその典型だと言えるでしょう。」
としながらも、 山菜採りなどの目的で山に入る場合はヒグマの生活圏に足を踏み入れているという自覚を持ち準備することが最も大切だと強調する。

   沢は野生動物にとってエサ場であり、水があるため移動する時にも便利な場所だ。そのため様々な生き物が利用している。ヒグマも沢の近くに姿を現す。鉢合わせしないよう、こちらの存在を気づかせるように大きな音をたてるなどの用心が必要だ。

ヒグマの悲劇

現場に残されたクマの血液から得たDNAによって、今回事故を起こしたヒグマと昨年の死亡事故のヒグマは同一個体であるとされた。このため防災ヘリコプターと23名のハンターによって探索が行われたが、まだ見つかっていない。

北海道では近年、山林のみでなく町の中でヒグマの出没が取りざたされている。もちろんヒグマは本来人との接触を嫌い、山中に暮らしている。現在、全道の森林面積は約70%で、残りが農地や宅地などの人の利用する土地だ。ヒグマの生息域は全道の50%ほどで、森林地帯と山岳地の領域を利用している。同研究所の調査では生息数は1900~2300頭で、このうち600~800頭が駆除または狩猟の対象となって命を奪われている。駆除の方法は、檻にエサを入れておびき寄せ、かかったところを銃で心臓を撃つ。この方法は10年ほど前から行われている捕獲法で、無差別に、熊を駆除する手段である。このため檻わなの使用は限定されるべきであろう。