トカゲ太郎のワンダー・ワールド
キリンの悲劇

    
2014年 2月28日

さよならマリウス

デンマークのコペンハーゲン動物園でマリウスという名前の若いキリンが命を奪われた。動物園の収容能力を超えていることと、他にもっと必要な遺伝子をもつキリンがいるからだそうだ。

同園では、毎年約30頭のアンテロープとラマ、ヤギ、その他の動物が犠牲になっている。やはりデンマークにあるオールボー動物園では、アカカワブタやアンテロープ、カピバラなど毎年15頭ほどの動物たちが命を絶たれている。ヨーロッパ動物園協会(EAZA)所属の動物園で行われているこうした処分は大型動物だけでも毎年約1700頭にのぼると推定される。もちろん、引き取ってもらえる質の高い動物園を探すなど、できる限りこのような事態を避ける努力を怠っているわけではない。それでも動物保護団体はその数はもっと増えるはずだと主張している。

コペンハーゲンの動物園でキリンのマリウスが処分された事を報じる各メディア

コペンハーゲン動物園で若いキリンが命を奪われたことは様々なメディアを通して世界中に報じられた。

一方、マリウスを救う動きが最も盛んだったアメリカではどうだろう。アメリカ動物園協会(AZA)は、動物によっては避妊薬をあたえて収容能力を超えるような事態はなるべく避けていると、伝えている。このため病気や高齢など健康上の問題がない限り、マリウスのようなことは起こらないと主張する。これに対して、EAZAは真っ向から反対意見を表明している。繁殖行動は動物にとって自然な行動であって、それを妨げることは動物の健康や福祉に反するというのだ。とはいえ、飼育動物を保護する団体によれば約7500頭もの過剰動物をヨーロッパの動物園は常にかかえているという。さらにアメリカでも同じような悲劇が起こらないわけではない。2009年、東海岸のボストンにあるフランクリンパーク動物園は助成金の削減で閉園の危機にあった。閉園した場合、約20%の動物たちが引き取り手のいないまま処分される可能性があったが何とか存続したようだ。生き物のエサ代や体調管理に限らず、広い施設の管理(冷暖房や照明、水質調整など)には多くの費用がかかる。動物園や水族館の経営は大変困難をともなう。

絶滅危惧種の保護と動物園

それでは希少な動物種の遺伝子を残す試みはどうなのだろう。野生で絶滅の危機にある動物たちを動物園で増やしていつの日か野生に放そうという計画だ。このような取り組みはアメリカをはじめ全世界で行われている。一方、この取り組みに疑問を呈する動物保護団体もある。こうした団体は動物園で飼われている動物のほとんどが野生で絶滅の危機に瀕していないという見解だ。

けれども、ニューヨーク市に拠点を置く野生動物保護協会(The Wildlife Conservation Society)はブロンクス動物園やセントラルパーク動物園など、複数の動物園と連携してアジア、アフリカなど世界の65か所で野生動物や生息地域の保護にあたっている。その予算は約200億円にものぼり、成果も毎年報告されている。つまり動物園の中には野生種の絶滅を防ぐ取り組みに直接関わっているところもあるということだ。

それでも世界の動物園が現状のままでいることは難しい状況にある。2006年にイギリスの動物園で、オオカミを群れごと処分するという出来事が起こった。群れの社会構造が崩壊したからと伝えられている。ただその原因は、狭い園内で混み合った状態で飼育されているためストレスから群れの中で争いが絶えないことにある。また、EAZAは遺伝子が交雑した雑種の動物はたとえトラのような貴重な種であっても積極的に処分するよう勧めている。

一方、飼育動物を処分するまでいかないにしても問題のある取引が行われているケースもある。余った動物の子ども(ライオンなど)をサーカスなど動物の飼育に適していない団体へと譲渡しているのだ。反対にアフリカゾウなど、野生動物を捕獲することで足りない種を補うこともまだまだ行われている。2003年には南大西洋のイギリス領内で146頭のペンギンが捕まえられてアジアの動物園へと送られた。



ホオジロザメは世界中のどの水族館でも観察することはできない。その巨大な身体や生態が飼育に適していないからだ。マウンテンゴリラもまた同じだ。動物園や水族館で飼育できる生物種はごくわずかでしかない。まだまだぼう大な数の生き物たちが大自然の中で暮らしているのだ。写真やビデオなど高性能化が進み、インターネットを通じて私たちは十分にその姿を楽しむことができる時代になった。

ホオジロザメは世界中のどの水族館でも観察することはできない。その巨大な身体や生態が飼育に適していないからだ。マウンテンゴリラもまた同じだ。動物園や水族館で飼育できる生物種はごくわずかでしかない。まだまだぼう大な数の生き物たちが大自然の中で暮らしているのだ。写真やビデオなど高性能化が進み、インターネットを通じて私たちは十分にその姿を楽しむことができる時代になった。

矛盾だらけの保護活動

絶滅危惧種の保護についてもいくつかの問題点が指摘されている。まず、繁殖計画で増やした動物を実際に野生に放すことはほとんどないということだ。なぜなら多くの動物園が生息地への再導入計画と無関係であるからだ。また、現地で飼育して十分な訓練を積まない限り、野生で自立して生きることは極めて難しい。そしてそのような訓練には莫大な費用と手間がかかる。さらに動物園で人気のライオンには野生復帰の道は遠いものになっている。ライオンは亜種どうしの交雑が動物園内で進み、保護の対象として価値がほとんどなくなっているからだ。

もっと根本的な矛盾点を挙げる団体もある。3頭のニシローランドゴリラの飼育舎に数億円かけるならば、そのお金で野生動物保護官による密猟者対策など、生息地での同種の保護をもっと効果的に進めることができるという。何しろ密猟の犠牲になるゴリラは毎年大変な数にのぼる。

遺伝子の違いによって身体の大きさや形、色などが変化するが、それらは生息地のさまざまな自然環境に大きく影響されてできあがったものだ。さらに生息地の環境だけでなく長い年月を経て今のような多様な種や亜種が誕生した。本当に希少種を守ろうとするならば生息地の環境全体を維持管理することが先決だ。加えて今は、温暖化による干ばつや砂漠化、大雨、台風など生息地を激変させる気象の猛威も見逃せない。教育の場というならば動物園や水族館は“命を大切にする”という根源的な使命を忘れるべきではないだろう。せっかく“マリウス”という名前までもらっていたのに。

トカゲ太郎