トカゲ太郎のワンダー・ワールド
アカウミガメの旅
アメリカ海洋大気局(NOAA)

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(2009年1月)

アメリカ海洋大気局(NOAA)は2003年から名古屋港水族館と共同でアカウミガメの回遊経路について調査を行っている。 これは1才から3才までの若いウミガメに電波発信機を取り付け、人工衛星でその動きをとらえようという計画だ。

地元の愛知県立三谷水産高校の協力で、ウミガメたちは同校の実習船愛知丸によって放流地点まで大切に運ばれることになる。 放流地点は北太平洋のほぼ中央。愛知丸は名古屋港を出発後、放流地点を通ってハワイに到着する航路を行く。

愛知丸の出港前、プロジェクトリーダーであるNOAAのジョージ・バラス博士とハワイ・プレパラトリーアカデミー(HPA)のマーク・ライスさんは子ガメたち一頭一頭の甲羅に発信機を取り付けるため大忙しだった。

子ガメたちの無事を祈るバラス博士と研究者のライスさん
子ガメたちの無事を祈るバラス博士と研究者のライスさん


ひとくちに取り付けといっても、これがたいへん重要で手間がかかる作業だ。 まず、甲羅から海水をきれいに洗い流し、次に紙やすりで甲羅を磨く。 こうすることで発信機を設置する合成ゴムの土台がしっかりと甲羅に定着する。 紙やすりはそれほど粗いものではないからカメが痛みを感じる心配はない。 そのあと水よけのファイバーグラスで発信機を覆って完了。 速い海流や障害物に対してもこれなら耐えられる。

しかし、40頭のカメにひとつひとつ付けていくのだから2人だけではとても間に合わず、同行したHPAの生徒たちとようやく作業を終わらせた。

「生き物が相手なので神経を使うし、肉体的にもきつかったと思います。 それでも生徒たちは覚えも早くテキパキと作業をこなしてくれたのでとても助かりました。 生徒たちといっしょに頑張れたことはライスさんとわたしにとって一生の思い出になりました。」 とバラス博士はなつかしそうに振り返る。

発信機をとりつけたアカウミガメ 発信機を取り付けたアカウミガメ (写真提供 NOAA)



これだけの人々がこのプログラムに力を注ぐのには理由がある。 遠洋漁業でのウミガメの混獲(あやまって網にひっかかること)を減らすためだ。 そこで北大西洋のおけるアカウミガメの生態を知ることが重要になってくる。 発信機から送られてくるカメの現在地や泳ぐ速さや潜る深さなど、すべてのデータが生態の解明に役立てられる。


黒潮の流れとカメの動き
図はカメたちが利用する黒潮の流れ。 日本からハワイ方面へと向かっている。
黒線はカメの動き、白線は海流と大きな渦の流れの方向。
色は海面の高さ。

(NOAA提供)



ウミガメたちは日付変更線に近い北緯32度、東経176度の海域で放された。 この特別な場所が選ばれたのは、これまでの追跡調査で若いウミガメたちがここに集まっていることがわかったからだ。 でも、ほとんどのウミガメは外洋を知らないし、エサを自分で獲ったこともない。 果たして大海原でしっかり生き残っていけるのだろうか。



太平洋のど真ん中、何を食べているの?

NOAAの研究者・デニス・パーカーさんは、アメリカのオレゴン州で人工衛星から送られてきたデータの収集と解析を行い、それを元にこの海域の地図を作成している。

アカウミガメのエサについてパーカーさんに聞くと、「アカウミガメたちはエサの種類を成長とともに変えます。外洋で暮らす若いカメは、海面を漂うカツオノカンムリやアサガオガイ、フジツボの仲間などを食べていると考えられます。 でも、海面のエサが広い外洋のどこにでもあるわけではありませんから、ときどき深く潜って微小なホヤの仲間の群体を食べていると思われます。」 と丁寧に答えてくれた。

ウミガメの餌となる生き物とその周りにいるほかの生物たち

研究者はアカウミガメの死体の胃の内容物を調べて、何を食べているのか解明している。 エサの種類を知ることで保護に役立てるためだ。

例えば、外洋においてウミガメたちはエサを捕るためほとんどの時間を海面から約10m以内の浅い水深で過ごす。 このことから水深の浅いところで魚を獲ることを禁止すれば、同時に混獲も未然に防ぐことができる。



若いアカウミガメの外洋でのエサ
アサガオガイ 粘液の泡でぷかぷかと海面に浮き、小さなクラゲなどを食べる。 殻の大きさは3cmから4cm、カツオノカンムリはこの貝のエサになる。
カツオノカンムリ 帆かけ舟のような形をしていているためウィンド・セーラーと呼ばれる。 大きさは約5cm程度。 小さなクラゲの仲間が集まってこのような形を作り出す。
ホヤの仲間 小さなホヤの仲間が集まって鎖のような形の群れや3mにもおよぶ巨大なチューブ型の群れを作る。 どちらもプランクトンをろ過して食べる。
フジツボの仲間 面を流れている木や軽石、ブイなどの物体にくっついて暮らす。
ムネエソの仲間 水深約100mから1200mに生息する、目玉がまん丸な深海魚。 夜の間に100mぐらいまで上がってくる。 ウミガメたちはこの時ムネエソを捕まえる。
ヒメゾウクラゲ(巻貝の仲間) ムネエソの横を漂っている。 これもウミガメのエサになる。


どうやってエサをみつけるの?

広大な北太平洋の海の中、生き物に出くわすことさえ珍しい。 まして小さな貝やクラゲを見つけることなど不可能だ。 おまけに一匹一匹見つけていたらとてもじゃないけどお腹を満たすことはできない。 パーカーさんによると、このナゾをとくためには海水温度や海流、葉緑素など海のさまざまな要素を考える必要があるという。

ウミガメたちは海水温度18度の海流の帯にそって北太平洋を移動していることがこれまでのところわかっている。

NOAAの北太平洋諸島漁業科学センターでウミガメの研究を行っているエヴァン・ハウエルさんは、このウミガメの行動について次のようにくわしく解説してくれた。

「つまり海水面付近に物が集まっている場所が、この特別な海水温度の海域であるということです。 アカウミガメのエサとなる生き物は、自分の力で泳げないか、もしくはほんの少しだけしか泳げません。 だからそれらの生き物は海面付近の流れや海水温度によってある一定の場所に集まってしまうのです。 この18度の海域はウミガメたちにとって北太平洋のレストランなのかもしれません。」

回遊経路の追跡によってアカウミガメの生態が解明されただけでなく、行動パターンを知ったことがアカウミガメの保護につながった。 北太平洋でマグロやカジキマグロを釣る漁船にこの海域での操業を避けるようNOAAがすすめたところ、実際に混獲をかなり減らすころができたのだ。


生き物たちを育てる海流

NOAAの太平洋諸島漁業科学センター・海洋生態局 局長ジェフェリー・ポロヴィナ博士は、世界的に有名なエコパス・モデルの発明者だ。 このシステムは海の生態系の変化を予測するもので、沿岸と外洋の両方で予測可能だ。

海に出て調査をするポロヴィナ博士とリサーチーチームのクルー
ポロヴィナ博士は発信機の取り付けられたジンベイザメを追うことでさらに詳しい外洋の生態系についての調査を進めている。


ポロヴィナ博士はウミガメを追跡することで外洋の複雑な生態系がどのように働いているのか解明しようとしている。


「広大な外洋において生き物の棲みかは、曲がりくねった海流や渦潮によって形作られます。 ちょうど沿岸における藻場やサンゴ礁の役目と同じです。 海流のような動きがサンゴのような物と同じというのは少しわかりにくいのですが、それはつまりこういうことです。

海流は、陸上における風のような役割をもっています。 ちりのような小さなものを巻き上げたり、集めたりする働きがあるのです。 例えば、勇昇と呼ばれる水の流れは、海水中にふくまれる栄養素を深海から海面近くに押し上げると同時に一定の場所に集めるのです。 この押し上げられ集められた栄養素によって植物プランクトンがどんどん増え、それを目当てに動物プランクトンが集まってきます。 その後はトビウオやイカ、メカジキ、マグロ、ジンベイザメとどんどん食物連鎖が広がります。」

と、ポロヴィナ博士は複雑な外洋の生態系をわかりやすく解説してくれた。



 
黒潮が暖流と寒流のあいだを通ると蛇行をし始め、次第に流れとはなれて渦潮ができる。 渦潮の大きさは数十キロから数百キロにまでおよぶ。



でも、アカウミガメたちはどうしたのだろう。

ポロヴィナ博士は 「ウミガメたちは黒潮が海水温の違いによって大きく曲がりくねる地点を目指します。 そこは栄養豊かな寒流と亜熱帯の暖流がぶつかる場所なのです。 ここでウミガメたちは渦潮をうまく利用します。 この渦潮はウミガメたちが一周するのに約一か月もかかる巨大なものです。 ウミガメたちはこの渦潮の端にそってぐるぐると回り、4か月ほど旅します。 ウミガメの速さと渦潮の流れの速さとほぼ同じなのでおそらく流れに乗っているのでしょう。 加えて、この渦潮の端の地域には勇昇によってエサが海面近くに巻き上げられてきます。 ウミガメたちは渦潮の端にそってゆらゆらしていれば、獲物が自然と近くまでやってきてくれるというわけです。」 と、これまでの追跡調査でわかったウミガメの生態を明かしてくれた。




青い矢印はアカウミガメの動きを示す。アカウミガメが渦潮の周りを泳いでいることがわかる。
資料提供 NOAA



危険な海の旅

トカゲ太郎 ウミガメにとってエサの多い場所には、サメなども集まってくる。



ところがいいことばかりではない。 当然エサの多いところには他の魚も集まってくる。 その中には太平洋泳ぎ回るヨシキリザメもいる。 若いアカウミガメたちが襲われたらひとたまりもない。 おまけにメバチマグロやカジキマギロを目当てに漁船もこの海域にやって来る。

ヨシキリザメなどの敵からどのようにして身を守っているのかはわからない。 でも人間に誤って捕まえられてしまうことはだんだんなくなってきている。 なぜなら近年になって漁船はエサにイカではなくサバを使うことやいままでより大きな釣り針をもちいることが、法律で義務づけられたからだ。

ウミガメたちにとってイカは好物だがサバにはあまり興味がない。 また、大きな釣り針だと飲み込むことができず自然と引っかかることが減ってきた。 そのうえ、もし17頭以上ウミガメが誤って引っかかってしまった場合、この海域での全漁船の操業が禁止されるという厳しい制限が課せられた。 もちろん、漁船の人々の協力もまたウミガメたちを事故から守ることにつながった。



未来に向けて

これまでの調査でわかったアカウミガメの一生は次のようだ。 まず日本で生まれたアカウミガメたちは、黒潮にそって太平洋を東へ進み黒潮と北太平洋海流がぶつかる付近で2年から6年過ごす。 その後ある程度育ったウミガメたちはさらに東へ進み十分に成長するまでアメリカの西海岸沖にとどまる。 そして大人になったウミガメたちは再び日本をめざして西へと泳ぎ始める。


海底の甲殻類を食べるウミガメたち

アメリカ西海岸バハ・カリフォルニア沖には多くのアカウミガメたちが集まってくる。 こここではエビに似た RED PELAGIC CRAB や小魚を主に食べて過ごす。 成長して大人になると日本に向かい、途中東シナ海においてはエビ、カニなどの甲殻類やクラゲなどの軟体動物を食べる。 ときどき魚を求めて100mから300mの深さまで潜ることもある。



写真提供 NOAA

ウミガメを愛してやまないバラス博士は35年間にわたってウミガメの生態を研究し、その保護に努めている。 バラス博士はアカウミガメの生態についてこれまで多くのことがわかったことは確かであるが、まだまだ解明されるべきことがたくさんあることを指摘する。

「世界には7種類のウミガメがいます。 すべての種類がそれぞれ特有のエサを食べ、一生の過ごし方もさまざまです。 当然からだの大きさや年齢によってその行動も変わってきます。 そのうえ同じ種類しかも同じ年齢であっても棲む場所が違えばこれまた違いが出てきます。 アカウミガメについていえば、だんだんその生活がわかるようになってきました。 しかし、私たちのアカウミガメについての知識はまだまだ限られているし、バラバラの状態です。 このすばらしい生き物を守るためこれからもジグソーパズルを解くように根気よくその生態を解明する必要があります。」 と熱心に語り、日本やNOAAの仲間たちと協力してアカウミガメの保護に取り組めることをとてもうれしく思っている。




消えたイセエビの謎

ポロヴィナ博士は調査や研究に忙しい中、一般の人々や学校の生徒さんたち向けの講座を行っている。 海のことを知ってもらうことがとても大切だと感じているからだ。



そこで次回のお話はドクター・ポロヴィナの「消えたイセエビの謎」です。 お楽しみに。


トカゲ太郎






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