トカゲ太郎のワンダー・ワールド
日本ウミガメ協議会
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(訪問日 2011年8月26日)

いつからウミガメは守られてきたのか

ウミガメを守る活動がはじめられたのは徳島県の大浜海岸で1950年のことだった。 そのあと1954年には同県の蒲生田(かもだ)海岸でも上陸調査がはじめられた。 これらの活動の中で上陸回数や産卵状況などの調査を丹念に行ったのは地元の小中学生。 おそらく世界で初の試みと考えられ貴重な記録となっている。 今でも活動は続けられていて、大浜海岸の取り組みは、現存する世界のウミガメの紹介やその進化などの展示を行う「日和佐うみがめ博物館」の設立につながった。

1960年代から70年代になると和歌山、宮崎、鹿児島など全国各地のウミガメ産卵地でもそれぞれ調査や保護活動が行われるようになった。 ただ、海外では1970年代にウミガメ研究がさかんに行われ科学をもとにした保護が進められていたのに対して、国内ではウミガメの専門的な研究はほとんど進んでいなかった。 また、日本各地で調査保護を進めている人々のあいだで情報を交換することもほとんどなかった。

このようなばらばらだった産卵地の取り組みをつなぐきっかけとなったのが1988年に開催された「日和佐海亀国際会議」だった。 海外の専門家も交えたこのシンポジウムによって、各地で進められている生態調査をまとめる必要性と情報を共に分かち合うことがウミガメ保護に欠かせないことがわかった。 そのため小笠原海洋センターの菅沼弘行さんは1989年に「うみがめニュースレター」(年4回発行)を創刊し、全国のウミガメ関係者に無料で配布している。 そして、1990年に「日本ウミガメ協議会」(亀崎直樹会長)が設立され、鹿児島で「第1回日本ウミガメ会議」を開催し、そのあとも同協議会によって毎年開かれるようになった(今年は11月18日から20日、沖永良部島で開催予定)。

つながりはじめたウミガメ保護

日本ウミガメ協議会の研究部長・松沢慶将さんは活動の大きな目的のひとつを、現地で保護活動を行っている人々どうしはもちろん、研究者もいっしょになってウミガメの保護について語り合う場を提供することだという。

「産卵調査は楽じゃありませんよ。 なにしろ春から秋まで続きますから。 加えて上陸は夜だから広い砂浜を夜通し歩き回ってウミガメ探す。 こうして集められたデータはとても貴重です。 だからこそ、知識だけでなくそういう地道な体験を全国の同じ仲間と分かち合い、励まし合う場がとても大切になんです。」 と、松沢さんは話し、ウミガメ会議で人々がつながることが保護活動をいっそう発展させているという。

西表島のアオウミガメに付けられたタグ
(写真提供:日本ウミガメ協議会)

日本ウミガメ協議会では個体識別用のタグを全国の関係者に無料で配っている。 これは標識を統一することで混乱を避け、捕獲されたウミガメが誰によっていつ放流されたか正確に知ることに役立つ。 実際、和歌山県串本海中公園で放されたウミガメが1年後、北アメリカ西海岸のバハ・カリフォルニアで見つかっている。 また、沖縄県宮古島の吉野海岸で放されたものがなんとベトナムのメコン川河口で見つかり、その翌年また吉野海岸に戻ってきたという例もある。 このような情報は同協議会にまとめて報告され、放流した本人に伝えられる。 自分が助けて放したウミガメの無事は保護活動のやりがいをいっそう増してくれる。

研究とウミガメ

松沢さんの研究テーマのひとつはウミガメ類の温度依存性決定だ。 これはウミガメの卵のおかれた周囲の温度によって子ガメの性別が決まることを意味し、20~29℃の状態にあるとオス、それより高い温度だとメスが生まれるという。 こうした研究は保護のし方に大きく関わりをもっている。 例えばこの生態が解明される以前、マレーシアでオサガメの卵をふ化場に集めて保護する取り組みが長年続けられた。 でも、その結果メスばかりが生まれて未受精卵が増えてしまったのだ。 また、ここ数年フロリダ半島沖で捕獲されるウミガメの多くがメスであるという報告があり温暖化とのつながりも指摘されている。

同協議会の研究員・岡本慶さんはウミガメ類の形態と分類をテーマにしている。 今はクロウミガメの調査・研究に取り組んでいるところだ。 世界にウミガメは7種生息していると考えられている。 東太平洋に生息しているクロウミガメは、今のところ種とするほどの違いがない「亜種」だとされている。 岡本さんはクロウミガメが独立した種であるかどうかを明らかにするため、フランスに保存されていた100年以上前の標本の形態と現在のものと比較し、その結果をもとに学会発表の準備をしている。 岡本さんによれば国内でクロウミガメは北海道から沖縄県八重山まで20例ほど見つかっているという。

「種類を特定し、形態をよく観察することは保護を着実に進める上で欠かせません。 例えばオサガメは甲羅の長さが130cm以下だとまだ子どもですけど、クロウミガメは70cmあれば産卵できる大人です。 成熟した個体が多ければその種類のウミガメが増える可能性があるといえます。」 と、話す岡本さん。 浜に打ち上げられた死体の死因や保護されたウミガメの成長の度合い、などを調べることも岡本さんの仕事だ。

西表島でアオウミガメの甲幅を測る岡本さん。 ノギスと呼ばれる専用のものさしを使う。



大丈夫なの?ウミガメ

クロウミガメ
クロウミガメはアオウミガメの亜種と考えられることもある。 お腹の色が黒っぽいことと、甲羅の後ろ側が細くなっているのが特徴。
(写真提供:日本ウミガメ協議会)

日本の海に現れるウミガメは、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、オサガメの5種だ。

なかでもアカウミガメは日本の広い地域に上陸していて、太平洋側では福島県以南、日本海側では石川県以南の海岸で産卵が確認されている。 また、アオウミガメは主に東京都の小笠原に多く、鹿児島県屋久島が産卵地の北限となっている。 さらにタイマイは沖縄県以南での産卵が確認されている。 その他のウミガメについては捕まえられた例があるなど、日本の沿岸を泳ぎ回っているようだ。

日本のアカウミガメは地域によって差はあるものの90年代に上陸・産卵の回数が著しく減ってしまった。 産卵地の環境の悪化や混獲などが主な原因と考えられている。 ただ、最近は回復傾向にあるという。

また、アオウミガメについては明るい兆しが見えている、小笠原で数が年々増えつつあるからだ。 さらに八重山地方で見られるタイマイの数は減ってはいないものの成長が遅くなっているという。

「タイマイは主に海綿を食べますが、好き嫌いがあるようで50種類以上もある海綿のうちのわずか7~8種しか口にしないようです。 その海綿の状態があまり良くないことが成長率を抑えているのかもしれません。」 という岡本さん。サンゴ礁の状態と海綿の関係を指摘する声もあるという。



ウミガメと共に生きるため

オサガメの口のなかにあるトゲのようなものは、主食のクラゲなどを呑み込んだときに逆流しないようにするためではないかと思われる。
(写真提供:日本ウミガメ協議会)

日本ウミガメ協議会には毎日のように浜に打ち上がった死体の情報が寄せられる。 その数は年間で400~500頭にもなるという。 解剖して死因を調べても、よくいわれるプラスチックごみによる場合は稀で、外傷もほとんどない、あと考えられることは窒息死だ。

漁業の網や釣り針にウミガメや海鳥が誤って捕らわれてしまうことを混獲という。 ウミガメは定置網や刺し網、まき網などで混獲される場合が多い。 ウミガメは肺で呼吸をしているからときどき海面に顔を出す必要がある。 漁業用の網のいくつかは魚が逃げないようにフタがあって、ウミガメが入ってしまうとそのフタのため息つぎができなくなってしまうのだ。 このため同協議会では漁業者や研究者と協力してウミガメが自力で網から脱出できる装置(脱出口)の開発を急いでいる。 また、須磨海浜水族園と協力して混獲回避のための脱出装置の公開実験を行い、広く一般の人々にウミガメを取り巻く環境について知ってもらおうと考えている。

「混獲は今取り組んでいる重要課題のひとつです。 そのために漁師さんといっしょになって網の開発をしています。 実際、日本のはえ縄漁船の方々が考案したトリポール(船尾に鳥の嫌がる吹き流しやテープをつける)は、世界中に広がって今では海鳥の混獲はほとんどなくなりました。」 と松沢さんは語り、新しい網の開発がウミガメの混獲減少につながることを期待している。


クロウミガメの腹部
(写真提供:日本ウミガメ協議会)

ウミガメをおびやかしているのは混獲だけではない。 産卵地の自然環境が悪化していることも大きな問題だ。 ウミガメはできるだけ波打ち際から離れた場所で産卵をする。 台風や大波で卵が流されてしまうことを避けるためだ。 ところが、消波ブロックやテトラポットなどがウミガメの砂浜への上陸の妨げになっている。 また、砂浜自体がやせて消えつつあることも挙げられる。 原因はダムによって河から砂が運ばれなくなったことや砂の浸食を食い止めるはずだった離岸堤が潮の流れを変えて新たな浸食を引き起こしていることなどだ。

「本来の砂浜の生態系はすばらしいものです。 陸からは河が海からは波が砂を運んできてくれる。 砂は風にも乗ってやってくる。 そうした砂をハマゴウやハマヒルガオなどの海浜植物が受け止めてくれる。 砂浜の後ろにある林は砂が飛び散るのを防いでくれるだけではなくウミガメが嫌う光を遮断してくれるのです。」 と松沢さんは語り、昔日本の砂浜ならどこでも見られた風景がウミガメの産卵には欠かせないと指摘する。

防災ということも考えながら砂浜も守るのはチャレンジではある。 それでも消波ブロックを取り去った豊橋市の海岸にウミガメが上陸・産卵したという例も出てきている。



海はつながっている -注目される日本のウミガメ-

国際自然保護連合(IUCN)が作る絶滅が心配される野生生物の一覧表・レッドリストの中にウミガメ類はほとんど含まれている。 アカウミガメとアオウミガメは絶滅危惧種、タイマイとオサガメはそれらよりもっと深刻な非常に絶滅が危ぶまれる種に指定されている。 松沢さんはIUCNのウミガメ専門委員としてこれらの指定に関わる話し合いに参加している。

高知県室戸沖で混獲されたオサガメ
(写真提供:日本ウミガメ協議会)

松沢さんは「ウミガメは陸上の生き物と違って広大な海を回遊しているうえに寿命も長い。 ウミガメのほとんどの種類が絶滅の危機にあることは間違いないのですが、果たして同じような指定のし方でいいのか議論の余地があります。」 として、IUCNのなかにはウミガメのための新たな基準を模索する動きもあるという。

さらに日本のウミガメについてはIUCNの発表した「世界のウミガメ保護における10の緊急課題」の中に含まれている。 加えて太平洋をはさんだ米国やメキシコも禁漁区や漁船の監視など混獲削減に努めている。 世界中の人々が日本のウミガメを守る姿勢に注目している。

「ウミガメがいなくなったら浦島太郎の話をどう受け継いでいけばいいのでしょう。 死んだ海亀のため石碑をたてて手厚く葬る漁師さんたちもいます。 それだけではなく、今でもウミガメを食べる伝統をもった地域もある。 ウミガメを中心にした文化的・伝統的な価値も見逃せません」 と、岡本さんはウミガメ保護の多様な意味を説明する。

和歌山県みなべ町の千里の浜は、本州の産卵地の中で最もウミガメの密度が高い。 松沢さんはウミガメや浜について子どもたちに知ってもらえるよう、ウミガメの模型を使って環境教育を行っている。

松沢さんは、「陸上ならば大型の生物、例えばトラやクマなどは自然環境が多様でバランスが保たれているかを評価する指標です。 そう、ウミガメは海の基準。 かれらを守ることは海や砂浜など海を取り巻く環境を守っていくことにつながっています。 そうすれば食べたり見たりするための魚介類や海浜レジャーなど、人間が得られる海の恵みも豊かなものになるでしょう」 と語り、ウミガメの保護を人間も含めた生態系全体を守る活動としてとらえている。

日本ウミガメ協議会の目指すことはウミガメをレッドリストから外すこと。 そのためには、1950年代に見られたウミガメの産卵数に回復することが今後の目標だ。