トカゲ太郎のワンダー・ワールド
ツシマヤマネコ

訪問日 2008年11月28日

ツシマヤマネコを救おう

トカゲ太郎ツシマヤマネコは絶滅の恐れが最も高い絶滅危惧種IA類に指定されている。 このため、環境省ではツシマヤマネコの飼育と繁殖計画を1996年からスタートさせた。 現在、環境省に協力してツシマヤマネコを飼育している動物園は、福岡市動物園井の頭自然文化園よこはま動物園ズーラシア富山市ファミリーパークの4園。 将来生息地にもどすことを目標に、飼育しながら繁殖を進めていて全体で100頭まで増やす計画だ。 ただ、4園だけではとても計画の達成には足りない状況で、今のところ佐世保の動物園が新たな受け入れ先として予定されている。 これまでの繁殖状況は、はじめに福岡市動物園が対馬から送られたヤマネコ5頭を1999年から飼育しはじめ、現在はその数が23頭まで増えた。 そして、飼育下の災害や感染の危険を避けるため2006年に井の頭自然文化園ズーラシアに新たに個体を移動し、昨年11月から富山が新たに加わった。

今回特集する井の頭自然文化園は、野生で保護されたオス1頭と福岡市動物園で産まれたオス1頭、メス2頭を飼育している。

大事な野生の個体・ファウンダー

エビゾウツシマヤマネコを増やして野生に復帰させるためには専用の飼育施設や訓練が必要となってくる。 受け入れるための十分な施設が整っているとともにアムールヤマネコの繁殖に成功している実績から、井の頭自然文化園ツシマヤマネコの繁殖に参加することになった。 現在飼育されているオス2頭のうちの1頭、エビゾウ(推定4才)は弱って海岸沿いをふらふら歩いているところを近くの水産物加工場の人に保護された。 エビフライで気を引いたら近づいてきたのが名前の由来だ。

トカゲ太郎このエビゾウはファウンダーと呼ばれる貴重な個体。 つまりできるだけ野生のツシマヤマネコの遺伝子を増やすためエビゾウの子孫が大切になってくるのだ。 このためもう1頭のオス、トラジロウ(6才)は飼育下で兄弟が多いため繁殖には参加しない。

ツシマヤマネコとは?

まずヤマネコとは、野生に生息する小型の猫。 人間に飼われているイエネコや野生化したイエネコつまり野良猫はヤマネコではない、またライオントラなどの大型のネコ類とも区別される。 今のところ世界中で5種類のヤマネコがいる。

日本にいるヤマネコは、沖縄県西表島に生息しているイリオモテヤマネコと長崎県対馬に生息するツシマヤマネコ。 ツシマヤマネコベンガルヤマネコの亜種。 約10万年前に朝鮮半島からツシマヤマネコの祖先は対馬にやってきた。 森の中だけでなく田畑にもときどき姿を現したことから対馬の人々は「トラヤマ」とか「トラネコ」と呼んでいた。

体長は、50cm~60cm、体重は3kg~5kg。 身体の特徴として、額に白と黒のしま模様があり、耳は丸く、後ろに白い斑点がある。 足は太くて短く、尾は太くて長い。

肉食性で、ネズミやモグラ、ヘビ、鳥、昆虫などを主に食べる。 また、イネ科の植物をときどき食べる。 これは胃の掃除や消化を助けるためではないかと考えられている。

かつては対馬全土に分布していたが、1980年代から数が減って今では島の南部、下島にはほとんどいなくなってしまった。 現在、上島と下島をあわせた島全体での生息数は、80~110頭と推測されている。 数が減った原因は、スギやヒノキの植林によりエサとなる生き物が少なくなったことや交通事故、イエネコからの病気の感染、犬に襲われるなどさまざまなことが重なっている。

ヤマネコは肉食

トラジロウ

ツシマヤマネコは冬に交尾し、春から夏にかけて出産する。 エビゾウも準備のためリリー(4才)とサクラ(2才)とケージ越しにお見合いしている。 担当の飼育展示係・佐々木真一さんによれば、サクラとの相性がいいらしい。 しかし、野生の個体であるエビゾウは荒っぽいところがあり、ケガを避けるため今はいっしょにするタイミングを慎重に見極めている段階だ。

野生にできるだけ近い状態にするため基本的に佐々木さんだけが飼育にあたっている。 直接ネコたちと向き合うのも朝と夕方だけ。 そのほかはモニターで様子を観察する。 食べものは基本的に1日1頭に対して鳥肉150g、馬肉150gを与えている。 また、ニワトリの頭やネズミもあたえる。

「2年経っても慣れませんね。 近づくと運動場の隅でシャーと唸って威嚇します。 でも、モニターで観察していると、メスとオスで追いかけっこをしたり、リラックスして仰向けになったりして寝ている姿はイエネコのようにカワイイですよ。」 と佐々木さんはネコたちの普段の様子を語る。 それでもやっぱりヤマネコだなぁと観察していて感じる時がある。

例えば爪。 先端が細くするどく尖っていて、まるで指先に釣り針をつけているようだという。 また、エサのネズミをくわえて空中に何度も放り投げて遊んでみたりする行動もときどき眼にする。

「肉だけを食べるヤマネコが野生でまだ生き残っていることは本当に不思議。 雑食ならまだ想像できますが、今の日本の環境でエサとなる生き物を探すのは困難ですからね。」 と、佐々木さんはツシマヤマネコを増やすことに責任を感じながら、その生息地の保護の大切さも伝えていきたいと考えている。

トカゲ太郎
サクラ


見て知って感じてもらうことも大事

佐々木さんとサクラ

展示場の中でのんびり日向ぼっこを楽しんでいるのはトラジロウ。 人間が近づけないことをちゃんと知っているからで決して人間慣れしているのではない。 トラジロウの役目は井の頭自然文化園を訪れる人々にツシマヤマネコのことを良く知ってもらうことだ。

佐々木さん。モニターでツシマヤマネコたちの様子を24時間観察できる。

井の頭自然文化園では今年11月に対馬見学ツアーも開催。 参加者はヤマネコの保護にあたっている対馬野生動物保護センターを訪れるとともに、ヤマネコの棲みやすい環境を作るためどんぐりの苗を植えるなど対馬の自然にじかに触れる体験をした。 また、ヤマネコミニ講座を行ってその参加者から「ヤマネコへの手紙」という作文を募集し、優秀作品を書いた小学生3名を対馬へと招待した。

教育普及係長の天野未知さんは 「トラジロウを実際に見てもらうことでより多くの人にツシマヤマネコのことを知ってもらえるようになったと思います。」 として、ツシマヤマネコの知名度とその生態についての理解に役立っているトラジロウの存在に感謝している。

井の頭自然文化園では2月22日(ネコの日)に講演会を予定している。 また、展示舎前でのスポットガイドも随時行う予定。

トカゲ太郎

時には庭先に姿を現わします

対馬の人々と共に暮らすツシマヤマネコ

ツシマヤマネコの故郷対馬でももちろん保護活動は進んでいる。 環境省対馬野生生物保護センターはその拠点のひとつだ。 同センターは、生息数や分布域の調査、事故や病気で保護されたヤマネコを収容し、リハビリを行って野生に戻す取り組み、対馬の自然環境の豊かさを知るための自然観察会やシンポジウムなど幅広い活動を行っている。

野生のツシマヤマネコ。木の上にいるのはチョウセンイタチ。数が減りつつある。奥にいるのはツシマテン。ツシマヤマネコに襲われることもある。

野生のツシマヤマネコ。 木の上にいるのはチョウセンイタチ。 数が減りつつある。 奥にいるのはツシマテン。 ツシマヤマネコに襲われることもある。

同センターの佐々木 真二郎自然保護官は、

「フンの調査からエサの6割から8割がネズミとモグラであることがわかっています。 ネズミのエサとなるドングリの苗植えや使われていない田畑の手入れをしてモグラを捕まえやすい環境作りをするなど、地元住民の方々と協力して保護を進めています。」

として保護活動が地味な作業ながらも少しずつ浸透してきているように感じている。 また、最近の取り組みとしては、平成4年以降、毎年3頭から5頭が事故に遭い負傷または死亡している。 野生の数が減っている中で決して少なくない頭数であるため注意をうながす看板の設置やドライバーの協力を求めている。

トカゲ太郎

地元の人々とヤマネコとのつながりについて対馬市役所の自然共生課の玖須博一さんは 「集落にときどき姿を見せて、鶏を襲って食べるなど被害が起こっています。 反面守りたいと考えている人たちはトラバサミやカゴ罠にかかったヤマネコの世話をするなど本当に熱心に保護活動に取り組んでいます。」 と話し、野生のヤマネコと人との共生が単純なものではないことを指摘する。

トカゲ太郎「わたしの家の庭先にも夜中ときどき姿を見せます。 何のためかはわかりませんが、うれしいですね元気な姿を見ると」 と玖須さんは豊かな自然が対馬残っていることが保護する上で大切だと考えている。

玖須さんやNPO法人「ヤマネコを守る会」は井の頭自然文化園で講演会を行うなど全国の人々にツシマヤマネコの大切さを伝えている。

昨年、23年ぶりに下島でツシマヤマネコが確認された。 生息域が広がっていると断定はできないが、保護活動の成果が現れつつあるのかもしれない。

ツシマテン