トカゲ太郎のワンダー・ワールド
母なる海
English

酸素は海でつくられる

地球の大部分は海に覆われている。私たち人間にとって海の中の様子を見ることは簡単ではない。海はあまりにも広く、深く、そしてサンゴ礁や海嶺、海溝などがありその形状がとても複雑だからだ。だからこそ科学者たちは少しでもその広大で未知な海の世界を知ろうと日々様々な研究を続けている。海に広がる大自然は、私たちが普段見ている地上の山々や森、平原などの大自然に引けを取らないほど多くの命でいっぱいなのだ。そして研究が進むごとに、その海の自然が地上の自然以上に豊かで、複雑で、そして壊れやすいかもしれないということがわかってきている。

人間が生きるためには空気中に酸素が必要だ。この酸素を作るのは植物である。だから陸上の森林を保護するのは大切なのだが、実は地球上の空気に含まれる酸素の半分は海で作られている。酸素を作る大役を担うのが、植物プランクトンや海に広がる海藻の大森林だ。同時に多くの二酸化炭素が海に吸収されている。海が二酸化炭素を吸収しなかったら、地球の温室効果が早まり温暖化現象や異常気象の悪化が更に加速するのである。

ケルプの森林の中にひそむウニとロックフィッシュの仲間
ケルプの森林の中にひそむウニとロックフィッシュの仲間
ジャイアントケルプ
ジャイアントケルプ

海の大森林に着目してみよう。ケルプと呼ばれる海藻はアメリカのカリフォルニア州沿岸を始め世界中の海に広く分布している。海に茂るケルプは大量の酸素を空気中に送り出し、同時に二酸化炭素を吸収している。成長がとても早く、平均約50mも伸びて大森林を作る。所々に浮き袋を持ち、沈むことなく水面に向かってまっすぐ伸びていく。私たちに馴染み深いコンブもケルプの一種だ。ケルプの大森林は海の中のジャングルのような存在だ。多くの生き物にとっては、敵から身を隠すことが出来る安全な棲みかとなり、またそうして隠れている生き物を狙って別の生き物たちの食べ物探しの場所ともなる。またウニのようにケルプそのものを食べる生き物もいる。ウニが増えすぎるとケルプの森林の破壊につながるが、ラッコなどの動物がそのウニを食糧とする。それぞれの生き物はとても小さいが、このデリケートなバランスの中に海の大森林が保たれている。

ここには数限りない微生物、無脊椎動物、魚やアザラシ、鳥などの脊椎動物が集まってくる。
ここには数限りない微生物、無脊椎動物、魚やアザラシ、鳥などの脊椎動物が集まってくる。

様々な姿の海岸線 

地球の大半は海で覆われている。当然のことながら海は降雨や気温変化など様々な気象に影響している。陸地で暮らす人間の約半数は海岸から150キロメートル以内の範囲で暮らしていて、海から大きな影響を受けている。近年、世界の人口が急増するにつれて、海から遠く離れたところに住む人々の生活にも気候変動など海からの影響は測りしれないものになっている。一方で、人々は海と共に暮らし、食糧を得たり、海上交通を整備したりするなど、海を利用してきた。つまり海と人とは複雑に絡みあいながらお互いに影響し合っている。

海の生態系はとても複雑で壊れやすい。なかでも、陸と海が出会う場所、海岸線は色々な姿形をしていて、その生態系は流れ込む河川や海流、気温など様々な要素で形作られている。さらにそこに暮らす生き物もまた、海岸線の生態系を支える大切な役目を果たしている。

それではどんな海岸の生態系があるのか見てみよう。


砂浜 河口
サンゴ礁 湿地
藻場 マングローブ林
汽水域

地球上で一番生物多様性が豊かな環境ってどこ?    それは砂浜 

何もいないように見える砂浜。でも、例えば波打ち際に立った時にその足の下には100万を超える数の生き物がいる。なかなか信じられないかもしれないけど、その多くは人の目には全く見えないほど小さいからすぐには気がつかない。砂浜は、生き物であふれている。なにしろ地球上に存在する生物の種類(門)の半数以上が砂浜に生息しているくらいだから、その多様さはアマゾンの熱帯雨林をもしのぐ。

ところで、砂浜といっても場所によって色々違いがある。砂の粒の大きさがその一つ。押し寄せる波が強い浜では、細かい砂は波に押し流され荒い粒だけが残る。逆に波が穏やかな浜には細かい粒の砂が残って、素足で歩いても気持ちのいい浜辺になる。このように砂浜の形成に大きく影響する波の起き方や強さは、周辺の地形や海流、気候など様々な要因によって変化している。

刻々と変化する砂浜で暮らすことは簡単なことではない。だから、砂浜で暮らす生き物は波に流されないよう工夫している。

カナダ、ノバスコシア州のファンディ湾
干潮時と満潮時の水面の高さの差が世界一大きい。特徴的な湾の形によって起きる現象で、潮の満ち引きには強い水の流れが生じる。ここの砂浜の砂は粒が荒い。
静岡県浜松市遠州灘
太平洋に面するこの浜には、穏やかにな波が起きている。浜の砂は細かくてサラサラしている。

例えば、こんな感じだ。
・体が細長いことで、体を砂の中に沈み込ませる。
・小さなツメのようなもので砂や石をつかんだり、粘着性のある物質を体から出して砂の粒にくっついたりする。
・微生物は、砂の粒よりも小さいから、簡単に砂の中に潜ることができる。
・硬い殻や鱗、背骨などを持ち、砂を押しよけながら潜っていく。

Beahes - Jack the Lizard Wonder World
これらの生物の大きさは約0.05 ~ 1.7 ミリメートル。
左上から、緩歩動物、輪形動物の一種、外肛動物の一種(三つ並んでいる)、刺胞動物(赤い)、胴甲動物、 環形動物の一種(芋虫に似ている)、動吻動物(ムカデみたいな形)、節足動物

河口の住人    - 河口の環境 - 

河口は川の水が海に流れ込む場所だ。海に向かって川幅が次第に広がり、流れも緩やかになる。ここでは淡水と海水が混ざり合う。水に含まれる塩分は潮の干満や降水によって常に変化する。干潮時には川の水が海へと流れ込み、河口付近の塩分は下がる。一方、海水が川へと流れ込む満潮時には塩分が上がる。また、塩分は河口付近の地形や川の水深などによって様々に変化する。

河口付近の水の塩分は常に変化しているため、そこに暮らす生き物にとっては厳しい環境だといえる。塩分が高い水の中では体細胞から水分が流れ出てしまう。逆に低い水だと細胞が水分を吸収し過ぎてしまう。このため河口で暮らすには何らかの有効な手段を持たなければならない。

例えば、魚など素早く動くことができる生き物は、身体に適した塩分の水域へと移動するだけでいい。一方、貝など動きの鈍い生き物は泥の中に隠れる。なぜなら、泥の中の塩分濃度は比較的安定しているからだ。

カブトガニ(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
カブトガニ
スミソニアン国立自然史博物館の展示より

では、フジツボのように全く動けない生き物はどうなってしまうのか。どうやら自らに適した塩分の水を取り込んで、殻を硬く閉ざしてしまうようだ。またオオノガイの仲間やカブトガニは、身体の中の塩分を回りの水の塩分に合わせることができる。さらにガザミの仲間やシオマネキ、カレイは回りの水の塩分変化に全く影響されることがない。

河口のいきものたち(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
河口のいきものたち
スミソニアン国立自然史博物館の展示より
河口の環境(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
河口の環境

海に生きる草    - 藻場 - 

海草は浅瀬の海や河口付近に生息している被子植物(花を咲かせる)だ。アマモなど多くの種類が世界中で見つかっているけど、その種数はハッキリと分かっていない。48種から70種ぐらいはいると考えられている。ほとんどの種が水中で受粉し繁殖を行う。

海草が作り出す藻場は多くの生き物たちに隠れ場所や食べ物を提供すると同時に、生態系を安定させる様々な機能をもっている。例えば、葉は海流のスピードを緩やかにするし、根っこは砂を安定させる。また、二酸化炭素を吸収して、酸素を大気中に大量に放出する。ふつう、藻場周辺の海水は透き通っている。これは海草の葉が海水中に漂うゴミや水質の低下につながる余分な栄養物を絡めとったり、吸収したりしてくれるからだ。

海草はウミガメやジュゴン、マナティー、魚類、カニ、そして海鳥など多くの生き物たちのエサになる。でも、少しずつ藻場の大切さが明らかになっているにも関わらず、世界中の沿岸部で藻場はその姿を消している。

藻場が消失している理由は様々ある。ひとつには、開発のために砂を海底から取り去ってしまうことだ。また、陸上から吸収しきれないほどの栄養物が海に供給されていることも挙げられる。海草は光合成のために太陽光が必要だけど、大量の栄養分が海水中にあると藻類が異常に繁殖し、太陽光を遮ってしまう。大型の捕食魚は海草を食べるカニや巻貝の仲間の数を抑えることに役立っているけど、その魚たちを人間が獲りすぎることで、海草を食べる生き物たちが増え過ぎて、健全な藻場の維持が避けられない状態になってしまう。

でも、海底に海草を移植することで藻場をよみがえらせることができる。瀬戸内海の人々は藻場を復活させる活動を長年行ってきた。時間と労力のかかる取り組みだけれども、再生した藻場には今、多くの魚や生き物たちが集まっている。

藻場(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
藻場

汽水域の生き物たち    - 淡水と海水の出会いの場 - 

汽水はある程度塩を含んだ水のことだけれど、その塩分の割合は海水より低い。汽水は淡水と海水が出会う河口付近にしばしば現れる。マングローブ林もまた汽水域をつくり、独特の生態系を育んでいる。一部の海や湖も汽水を含んでいて、バルト海やカスピ海がその例だ。

生き物たちにとって汽水域に身体を慣れさせるのは至難の技だ。けれども、汽水域なしではその一生をまっとうできない生き物たちもいる。海から戻ってきたサケは汽水域で淡水の環境に慣れるよう身体を調整する。ウナギは逆に海での生活の前に汽水域を利用する。いずれにせよ、汽水域は必要だ。

魚の多くの種が、汽水域で稚魚の時期を過ごす。汽水域には多量の栄養分があり、しかもわずかな捕食魚しか汽水域の環境に適応できないからだ。

人間はサケやエビの養殖場として人工的に汽水域をつくり出す。ところが、このような人工の汽水域はしばしば回りの環境に悪影響を与える。多くの動植物にとって汽水域は毒であるからだ。

汽水域の生き物たち(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
汽水域の生き物たち

マングローブの王国 

マングローブ林は熱帯と亜熱帯の沿岸に広がっている。マングローブ林は海水や潮の満ち引きなどの厳しい環境に耐えられる数種の植物で成り立っている。満潮時マングローブの根は完全に海中に沈んでしまい、逆に干潮時には太陽光で海水の水分が蒸発してしまいマングローブ林の土に含まれる塩分の割合が高くなってしまう。約110種あるマングローブだけがこのような環境に適合できる。フジツボの仲間やカイメンの仲間、カキ類などの海水をろ過して食べ物を得る生き物たちもまたマングローブの根にくっついて暮らす。

マングローブ林(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)

マングローブは広い範囲に根を伸ばし陸上から流れてくる土をしっかりとつかみ、侵食や津波から陸域を守っている。複雑に絡み合った根は幼魚を天敵から守ってくれる。一方、泥の中に身を隠すエビやカニはマングローブの葉を食べて分解することで、底生生物にエサを供給している。さらにマングローブ林に溜まった泥の層は重金属を吸収することで重大な海洋汚染が引き起こされることを防いでいる。

マングローブ林(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)
マングローブ林(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)

    ノコギリガザミはアフリカ、アジア、オセアニアにあるマングローブ林に生息している。オーストラリアへラサギはオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、インドネシアなどの国々に暮らしている。マングローブは呼吸根を泥から突き出して呼吸をしている。
マングローブ林(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)

地球の生態系にとってマングローブ林はとても大切であるにも関わらず、世界中の約半分のマングローブ林が姿をすでに消してしまった。エビの養殖業はフィリピンやベトナムなどの国々で重要な産業となっている。そしてその養殖地を造るためマングローブ林が犠牲になったのだ。マングローブ林が与えてくれる恵みがいかに膨大であるか気が付いた国もある。タイではマングローブ林の開発は禁じるか、または制限を設けている。





トカゲ太郎


海洋生物が暮らす空間 

海洋生物の生活様式はだいたい四つに分けられる。海面近くに暮らす生き物はニューストン(水表生物)と呼ばれている。一方、ネクトン(遊泳生物)はほとんど水中で生活し、かつ自由に泳ぎ回ることができる。プランクトン(浮遊生物)もまた水中で暮らしているけど、泳ぎが不得意で海流に逆らって泳ぐことは難しい。海底にいることが多い生き物はベントス(底生生物)と呼ばれる。これらのグループは、種類や大きさで区分されているわけでなく、あくまで生活する場で分けられている。だから、ネクトンには海鳥やクジラ、マグロ、イカなどが含まれる。また、体長が2mに達するエチゼンクラゲは巨大なプランクトンだ。そして、バクテリアや流れ藻などがニューストンとして知られている 。様々な生き物が海底には暮らしていることから、ベントスには軟体動物から甲殻類、魚類、そして海草類などの多くの生き物が含まれる。

海洋生物が暮らす空間(トカゲ太郎のワンダー・ワールド)

微生物環 

海洋生態系のひとつの大きな流れは太陽光から始まる。まず、第一に植物プランクトンが太陽光を利用して光合成を行い、エネルギーを作り出す。太陽光は海では希少な鉄分も供給し、その鉄分は植物プランクトンが生きるために必要不可欠な栄養となる。そして、動物プランクトンが植物プランクトンを食べ、その後、植物・動物両プランクトンは魚やその他の生き物によって摂取される。ところが、海洋生態系を維持しているもう一つ重要な生物活動がある。“微生物環”と呼ばれるものだ。

働く細菌

沖合の海は栄養が陸から運ばれてくることはない、また深海には太陽光はほとんど届かない。なのに、それらの空間にも多くの生き物が暮らしているのは、微生物環という栄養の流れがあるからだ。微生物環がうまく働くには、細菌類(単細胞で核をもたない・バクテリア)とウイルスが必要になってくる。海中は生き物の死骸と糞でいっぱいだ。これらの有機物はデトリタスと呼ばれ、このデトリタスを細菌は食べて水と二酸化炭素を作り出す。植物プランクトンは光合成に二酸化炭素を利用する。ある細菌はカニの甲羅のような硬い有機物も分解してしまい、中にはプラスチックさえ粉々に朽ち果てさせるものもいる。細菌がそれらの有機物を分解することで、他の生き物にとってそれらの残りものが 食べやすくなる。細菌は自由に動き回り、上から降ってくる食べ物にありついている。たとえ酸素の欠乏した海域でも、酸素を必要としない細菌の仲間であれば生きていける。加えて、条件さえ整えば細菌はどんどん増殖していく。それでも細菌の数が増えすぎないのは鞭毛虫(べんもうちゅう)や繊毛虫(せんもうちゅう)などのプランクトンが細菌を捕食するからだ。ウイルスもまた細菌を破壊してしまう。死んだ細菌は他の細菌や生き物のエサとなって生態系がまわっている。

ウイルスは駆動源

微生物環がスムーズに働くためにもう一つ必要なのがウイルスだ。ウイルスは他の生物にとって有害である一方、ウイルスで死んだプランクトンの死骸は細菌や他の生物のエサになるので、食物も供給していることになる。なんだかウイルスは無敵のように見えるが、実は他の生物に感染しなければウイルスは生き延びることができない。このようにウイルスは海洋生態系の土台を支えている。




参照: The Ocean Hall, Smithonian Institution National Museum of Natural history